会員の皆様へ(2006年1月のご挨拶)

HIV抗体検査

エイズ感染者とエイズ患者

AIDS(acquired immunodeficiency syndrome)とは、後天性免疫不全症候群のことです。
 広辞苑によれば、「ヒト‐エイズ‐ウイルスの感染によりTリンパ球が破壊され、免疫機能が低下する病気。カリニ肺炎など諸種の感染症やカポジ肉腫などの悪性腫瘍を発生。発症すると死亡率が高い。血液・精液などを経由して感染する」とあります。
 一方、HIV抗体とは、エイズウイルスに感染したことにより、血液中に抗体(病原菌に感染したため、身体の免疫系が作り出す物質)のことです。
 そのため、HIV抗体を持っていることは、エイズウイルスに感染した証明となり、エイズ感染者とも呼ばれます。
 一方、感染者でもエイズによる症状が出ていなければ、エイズ患者とは呼びません。
 日本の2004年1年間における新規のエイズ感染者数は、780人、エイズ患者は、385人となりました。(厚生労働省)。
 合計で新規感染者・患者は、1000人を突破しました。日本は、先進国では、唯一、新規患者数が年ごとに増加している国です。このことは、あまり知られていません。
 エイズ感染者数は、後述のHIV抗体検査で陽性となった人の数ですので、検査を受けていない人で新規に感染した人は、この数字の何倍かになるものと思われます。

エイズの潜伏期間

エイズウイルスに感染しても発症するまでに数年~10年以上という潜伏期間があります。
 もちろん、感染してもすべての人が発症するわけではないようです。エイズは、発見されてからまだ、長い年月が経っていないため、これらのメカニズムが完全に判明してはいません。そのため、潜伏期間についても、これまでの統計から概ね、この程度と認識されているようです。
 どうでしょう。案外、長い期間ではないでしょうか。
 エイズウイルスに感染しても現在では、様々な抗ウイルス薬が開発されつつあり、エイズの発症を効果的に抑制できるようになってきていますが、残念ながら完全にエイズウイルスを駆逐することはできていません。
 しかし、以前に考えられていたように、ただ死を待つのみの悲惨な病気という印象は、必ずしも当てはまりません。
 エイズに感染しても早期にそのことが分かれば、それなりに対策をとることができるのです。

HIV抗体検査とは

成人病検診や人間ドックでは、HIV抗体検査を行っているでしょうか?
 ほとんど行われていないようです。(オプションで可能なところもあります)
 これは、誤解している方が多いと思います。梅毒の抗体検査などは、血液検査に含まれていますから、HIV抗体検査も含まれていると思ってしまうのでしょう。
 私自身もだいぶ以前ですが、(検査が)行われているんだ、と思っていました。
 問題なのは、HIV抗体検査が行われていないことが、はっきりと、かつ、わかりやすく説明されていないことです。
 また、行われていない場合は、どこで受けられるかという案内も周知されていない方が多いのではないでしょうか。
 同じように深刻な病気であるガンなどについては、その発見に医療が積極的であるにもかかわらず、HIV抗体検査については、病院も行政も何か、及び腰なのです。
 現状では、ほとんどの方が、その目的で検査を受けようとしない限り、HIV抗体検査を受けられません。
 検査そのものは、通常の血液検査と同様に少量の血液を採取するだけで、概ね1週間後に結果が判明します。
 保健所で受ける場合は、費用は無料で誰でも匿名で受診できます。健康保険証も不要です。

HIV抗体検査(実践編)

実際に2005年末に検査を受けてみました。
 検査は、全国の保健所等で受け付けています。居住している市町村の保健所でなくてもかまいません。
 また、最近では、自分で血液を採取して検査を受けることができるキットも発売されているようです。
 今回、私は、某区某所の某保健所に申し込みを行ってみました。
 まず、保健所の専用窓口に電話を掛けます。少し、どきどきします。気の弱い方であれば、まず、この段階で検査を受けることを止めてしまいそうです。
 電話番号は、公的機関のホームページに掲載されたものに掛けたのですが、まず、この番号が違っていました。
「あのー。HIV抗体検査を受けたいのですが・・」と話しますと、「おかけになったのは、代表の番号ですので担当部署に回します」と言われてしまいました。
 ここでも、同じ文言を言います。
 そうすると「検査の日を予約しますので、・・」となります。
 (かなり明るい声で言われます。もちろん、暗い声で言われるよりも良いとは、思いますが)
 「お名前、本名と異なった名(それは、偽名でしょう・・)でもよいので、お名前をお願いします」と言われます。あらかじめ考えていた名前を「○○です。」と言います。
 では、「×月×日 午後○時○分に保健所の待合室で番号札を取ってお待ちください」となりました。
 当日、少し早めに待合室に着きました。待合室とはいうものの午後は、誰も待っていません。
 番号札は、段ボールで作った手作りのものでした。幼稚園の子供が持つような素朴なボール紙の札とエイズ検査の持つ何とも言えない重みとが、いわば、天国と地獄のようにも感じられます。
 10分ほどして「3番の方、どうぞ」とドアが開いて、診察室に呼ばれます。机が2つあるだけのがらんとした部屋です。診察室というよりは、学校の教室のようです。
 まず、看護師と思しき女性の方から、エイズに感染したことが判明した場合、自身で責任を持って対処できるかどうか、等に関する説明を受けます。感染しているはずはないのに、なぜか、自分が感染してしまっているような気がして、かなり心臓の鼓動が速くなりました。
 次に、名前、年齢、と感染したかも知れないという時期を書きます。
 最後にもう一つの机のところで医者とおぼしき人が血液を採ってくれます。全部で時間にして10分程度ですが、これは! 想像していた以上に精神的に参りました。
 エイズに関するパンフレットが隣の部屋に置いてあるので持って帰るように言われて、別のドアから隣室に入り、そして廊下に出るとほっとしました。
 そして、結果は、翌週、判明します。
 同様の手順で同じ、診察室に呼ばれます。今度は、2つめの机で医者から結果が告げられます。
 「陰性」でした。

検査の前に横たわる障壁

実際に受検した人の陽性率は、かなり低いので、身に覚えがある人でも陽性になることは、まれです。
 ということで、陰性は、当然のことでしたが、体験してみると、受検率の向上を阻んでいるのは、金銭的や時間的な問題というよりは、精神的な障壁であるという印象を強く持ちました。
 まずは、申し込みの問題。その目的だけに「保健所」という、普通の成人(特に男性)にとってはあまりなじみのない施設に申し込みをするという障壁。
 次には、匿名で申し込み(本名でもよいとのことであるが。まず、なさそうです)をするという障壁。
 最後に、普段行かない場所に出向いて検査を受ける際の何か、全体の秘密のベールから感じる、罪悪感。
 かなり気合いを入れて、いわば、「決心」しないと検査を受けるのは、容易なことではありません。
 まずは、オプションでもよいので、成人病検診や人間ドックで、自然に受検できるという体制作りが必要でしょう。

終わりにあたって

では、今月は、ここまで。
 今後も時間ができましたらば、随時、更新していきたいと思います。
皆様、お元気でお過ごし下さい。

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