会員の皆様へ(2016年1月のご挨拶)

君の名は?

目次

字(あざな)と諱(いみな)
人にあらざるもの1 (神・仏の名)
寺号と山号
人にあらざるもの2 (ものがたりの名)
人にあらざるもの3 (IDとパスワード)
人にあらざるもの4 (数学・物理の変数名)
人にあらざるもの5 (プログラム内の変数名)
終わりにあたって

字(あざな)と諱(いみな)

「あざな、って、あだ名の間違いじゃないの?」

「おう、ともちゃんかい。
 明けましておめでとう。今年もよろしくお願いしますよ。
 あざなは、あだなの間違いではないかとな。
 間違えではない。「あだ名」は、字(あざな)から出た言葉というからな。
 ざっくりといえば、「字(あざな)」は、通称、諱(いみな)は、本名のようなものじゃ」

「インターネットで調べると、いろいろと出てくるわね。
 たとえば、「あざなの話」(http://www.geocities.co.jp/Bookend-Christie/8979/azakaisetu.htm)
 「姓と名と字(あざな)」(http://www3.plala.or.jp/teiontei/engi0.html)、など」

「ウィキペディアにも、詳細な説明がある。
 また、広辞苑では、字(あざな)とは、「中国で、男子が成年後に付ける別名。日本で、平安時代、成人男子が人との応答の際に名乗る名前。」とある。
 ネットの記事などを見ると、中国の例では、「諸葛亮孔明」(こういう文字列では表記しないようじゃが)は、「諸葛」が姓、亮(りょう)が諱(いみな)で、「孔明」が字(あざな)とのことじゃ。
 当時は、一般に、主君あるいは親は、諱(いみな)でよんでも良いが、他人は、字(あざな)または姓を使わないと、大変な失礼に当たったということじゃな」

「ウィキの記事によると、日本では、明治初期に戸籍を作る際に統一させたそうね。
 その際、たとえば、伊藤博文は、字(あざな)の「博文」を、板垣退助は、諱(いみな)の「退助」をそれぞれ、戸籍の名として登録したとのこと。
 しかし、「男子が」ということは、女性には、字(あざな)がなかったということですかい。
 それって、女性は、男の子並みで、大人としては、一人前とは認められていなかったということでしょ。
 清少納言にしても、「清原元輔」の娘としか分からない。少納言は、宮中での呼び名、本名は不詳。
 清少納言が聞いたら怒るでしょうね。
 『あたし、生まれたときから、清少納言じゃないってば!』」

「ま、確かに、あからさまな女性差別ではあるなあ。
 しかし、女性に限らず、人を官職名で呼んだり書いたりすることは、多かったのじゃろう。
 源氏物語などでも、「先の帝」とか、「頭中将」とかな。
 わしを含めて、大方の読者は、、その人は、いったい誰なんだ、と思うことが多いじゃろう。
 現代でも、(天皇)陛下とか総理大臣とかを姓名を書かずに、陛下、総理と書くことも多い。同時期には、一人しかおらんから紛れることはないがの。
 もっとも、「総理」は、畏れはばかると言うよりは、一種の省略記法・語法とも言えるかもしれんがの」

「昔は、貴族階級や武家の風習で、男子が11才~17才になり元服した際、字(あざな)を付けた。
 たとえば、「源義経」は、諱(いみな)が「九郎」で、字(あざな)が「義経」ということね。
 中国に限らず、日本でも、諱(いみな)をはばかる習慣があったと考えられるか。
 だけど、諱(いみな)が、「忌み名」に通じているとは知らなかったわ。
 ハリーポッターシリーズ(「ハリーポッターと賢者の石」など(J.K.ローリング:松岡洋子訳:静山社)にも、「名前を言ってはいけないあの人」という表現が頻繁に出てくる。
 この名前「ヴォルデモート」なんだけど、これって、まさに「忌み名」よね」

「なるほどな。
 古代では、洋の東西を問わず、多かれ少なかれ、人の本当の名を使うことを慎む、風習があったとはいえるじゃろう。
 本人の諱(いみな)を使うことでその人を操れるということを信じていたんじゃな。
 映画「陰陽師」(監督:滝田洋二郎 原作:夢枕獏 2001年:東宝)にも、安倍晴明(野村萬斎)が源博雅(伊藤英明)に向かって、いちばん短い呪(しゅ=まじない)は、「名」だと話し、『博雅様、あなたさまは、源博雅という名で縛られています』と語る場面があったのう」

「2015年12月16日の最高裁判所大法廷の「夫婦同姓合憲」判決(10人/15人)は、まだ「姓」という名で縛られている人が多いという日本の現実を表していると思うわ。
 だって、結婚で姓を変えるのは、女性が圧倒的に多いし、女は、結婚したら夫に従属すべき、という風潮が今でも残っている証拠よ。
 判決では、姓を変えると女性のアイデンティティが損なわれることには理解を示しながらも、通称が社会的にも認められているので、憲法に反してはいないと述べている。
 だけど、戸籍等では、通称は、認められないしさ。通称うんぬんだけで、女性差別でないとは言い切れないでしょ。
 まあ、少数意見だけど、5人の裁判官は、民法の規定を違憲と判断したし、判決でも、国会で議論されるべき問題とされたので、いずれ、国会で改正する方向に向かうべきでしょ」
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人にあらざるもの1 (神・仏の名)

「人にあらざるものと言えば、年寄りとしては、まずは、神・仏を挙げねばなるまいて。
 なお、物の名前については、2001年12月の「物の名前とファイル名」で触れたので、今回は、省略しよう。
 キリスト教やイスラム教のような一神教では、「神」や「主」と言えば、決まっているので、あえて、なになにの神などと呼ぶ必要がない。
 むしろ、みだりに神の名を口にしてはならぬとも言われているそうじゃ」

「旧約聖書のモーゼの十戒に出てくる言葉ね。
 主(エホバ=ヤハウェ)の名をみだりに唱えてはならぬと」

「それは、困ったときの神頼み的に使うことを戒めたものじゃろう。
 一方、仏教のような、多神教では、なんと言っても、多くの仏がいるのだから、名前を書いたり呼ばねばならない。
 仏典(お経)には、それぞれの仏様の名を何度も書いてある個所が多いと言われる。(「お経の話」(渡辺照宏 著:岩波新書:1968年6月第4刷))。
 真言密教の「胎蔵界曼荼羅」を見ると、以下のような区画を持ち、その中に諸仏・諸菩薩の画が多数描かれている」



区画となる院は、12あり、名称と所属する諸仏の数等は、以下の通り。

院  主な名前(かっこ内は別名) 数 
中台八葉院 大日如来
宝幢如来(釈迦如来)・開敷華王如来・無量寿如来(阿弥陀如来)・天鼓雷音如来
普賢菩薩・文殊菩薩・観自在菩薩(観音菩薩)・弥勒菩薩
9
遍知院 一切如来智印・仏眼仏母菩薩・大勇猛菩薩 7
観音院 聖観自在菩薩(観音菩薩)・大勢至菩薩・馬頭観音菩薩・如意輪菩薩
不空羂索菩薩
34
金剛手院 金剛薩埵菩薩 32
持明院 般若波羅蜜菩薩・大威徳明王・勝三世明王・降三世明王・不動明王 5
釈迦院 釈迦牟尼仏・観自在菩薩・虚空蔵菩薩 39
虚空蔵院  虚空蔵菩薩・千手千眼観自在菩薩・金剛蔵王菩薩 29
文殊院 文殊菩薩(妙吉祥菩薩)・観自在菩薩・普賢菩薩・月光菩薩 25
地蔵院 地蔵菩薩 9
蘇悉地院(そしつちいん) 孔雀王母菩薩(孔雀明王)・十一面観自在菩薩 8
除蓋障院(じょがいしょういん) 除蓋障菩薩・日光菩薩 9
最外院(外金剛部院) 大梵天・帝釈天・持国天・増長天・広目天・毘沙門天・日天・火天・阿修羅王
水天・風天・難蛇竜王・鳩摩羅天・他化自在天・彗星・日曜・月曜・火曜・水曜
木曜・金曜・土曜・弁才天・楽天・光音天・歌天
201
合 計   407

※「曼荼羅のみかた」(石田尚豊 著:岩波書店:1990年5月第8刷)及び「密教曼荼羅」(久保田悠羅とF.E.A.R. 著:新紀元社:2003年10月第3刷)を参考にしました。

「大勢、いらっしゃるわね。
 まさに、インドならではの想像力に脱帽ね」

「ま、仏の名は、インドから中国に伝わり、中国で漢字に翻訳された。
 以前にも書いたが、真言密教は、空海和尚が遣唐使に従い唐に渡り、長安の青竜寺の恵果和尚から法統を譲られて、真言密教法主第8世となった。
 この「真言」とは、インドのサンスクリット語による発音を指していて、文字は、梵字(悉曇文字)とも言われている。
 各院の如来・菩薩・明王・天及び各眷属の数は、「密教曼荼羅」に従ったが、目では、とても勘定しきれんな。
 なお、表で合計を407としているが、観自在菩薩(観音菩薩)などは、複数の院に存在しているので、重複を省くと、もう少し少なくなるじゃろう」

「最外院には、日曜とか月曜とかもいるのね?」

「密教がインドで生まれた頃、インドでは、天文学が盛んだったそうじゃ。(「曼荼羅のみかた」による)
 日月火水木金土の七曜と日食を起こす羅睺(らご)と彗星で九曜、二十八宿(黄道=太陽の運行する円上の星座で月はほぼ1日ごとにひとつずつ移動する)、十二天(方角や季節)などが含まれている」

「一方、ユダヤ教・キリスト教とイスラム教の神は、同じと言われているのに、現代でも、互いに争いが絶えないとは、皮肉な事ね」

「まったくじゃな。
 いずれにしても、太古の昔に書かれたものを文字通りに信じることは、愚かしいことになぜ気づかぬのかの。
 イスラム原理主義者などによるテロや石像・遺跡の破壊などは、もってのほかじゃ。
 神・仏といえども、結局は、古代の人が想像し、名付けた「名」に後世の人たちが操られているだけなのじゃから。
 まさに自縄自縛と言えるじゃろう。
 少なくとも、他人の信仰にもう少し寛容であって良いと思う」

「一般の日本人、私たちもそうだけど、他人の宗教に「寛容」というより、「無関心」なんでしょうね」
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寺号と山号

「昨年は、海外からの観光客も急増した。
 東京の名所と言えば、浅草の観音様もその一つじゃ。
 ここでは、神仏からのつながりで寺号と山号について触れよう。
 観音様、すなわち、「金竜山浅草寺」は、現在、「聖観音宗」という宗派の寺院だそうだ。(「百寺巡礼」:五木寛之 著:第5巻:講談社)」

「金竜山というのは、いわゆる山号ね。
 でも、○○寺でわかるのに、なんで、△△山、というのを付け加えたのかしら?」

「広辞苑によれば、禅宗とともに、中国から、このような習慣がもたらされたとのこと。
 寺が山にあることが多かったので、場所を示す意味で、△△山と使われたようじゃ。 
 その後、平地の寺にも、山号がつくようになったとのことじゃ。
 たとえば、今でも、成田山といえば、たいていは、新勝寺のことを意味するじゃろう。
 なので、鎌倉時代以前に創建されたお寺、たとえば、法隆寺など、山号がない寺もあるそうだ」

「同じ寺の名前の重複を緩和する意味もあったのかも知れないわね。
 たとえば、「清水寺」という寺号だけでは、全国に多数あるけど、「音羽山清水寺」というと、京都のあのお寺と限定されるふうにね。
 ちなみに、□□院、というのも、よく聞くよね」

「大きな寺には、人の住む区画が複数あることが多く、それらを院、あるいは、禅宗では、塔頭とよぶそうじゃ。
 前節の曼荼羅の「中台八葉院」などの「院」も中に住まわれるのは、仏様じゃが、区画という意味では同じじゃ。
 このため、規模の小さな寺には、院号がないようにも思うが、持つところもある。
 たいていは、山号、院号、寺号、の2つ又は3つの組み合わせで、その寺を呼ぶことが多いじゃろう」
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人にあらざるもの2 (ものがたりの名)

「いや、物語の名こそ、自由度は大きいが、作家の方も苦労するじゃろうな」

「確かに。
 中世までは、源氏物語や枕草子のように、物語の名前は、作者が付けたというより、周囲の人や後世の人がそう呼んだ名前だったろうけど、近代では、「○○物語」じゃない、いかに魅力的な作品名を付けるのは、大切よね」

「枕草子 第197段には、『物語は、住吉物語宇津保物語、埋木物語、月待つ女の物語、梅壺の大将の物語、、道心すすむる大将の物語、松枝物語、・・』、と、いにしえの物語の名が挙げられている。最初の太字の2つ以外は、後世に伝わっていないようだ。これらは、「○○物語」的な名前。
 近代、現代の小説について、わしがここで挙げるまでもないじゃろう。
 20年前にテレビで放映されたアニメ「新世紀ヱヴァンゲリヲン」が、もし、「新時代ロボット物語」だったとしたら、これほど、長期間のヒットになったかどうかな」

「そうね。主人公の「碇シンジ」君が「いかりや長治郎」君だったらとかね、いろいろと、想像できるわね」

「作品の内容の力は、大きいから、主人公の名前だけに凝ってもしょうがないがとはいえるがの。
 主人公の名とくらべると、作品を手に取らせる力は、作品名にあるので、より重要じゃろう」

「ジブリの作品でも、「風の谷のナウシカ」のヒット以来、「天空の城ラピュタ」、「ハウルの動く城」など作品名の多くが「○○の△△」にこだわったという話も聞いたわ。
 近いところでも、「思い出のマーニー」だもの。例外は、「もののけ姫」、「ゲド戦記」ぐらいかしら」

「もののけ姫も、間に「の」が入っているとも言えるがの。
 これも、同じ読みだからと言って、「物の怪姫」では、なんだかな」

「まったくね。
 ジブリじゃないけど、比較的最近のアニメの「蒼き鋼のアルペジオ」は、その響きが気に入っているわ。
 あ!、これも、間に「の」が入っているわ。
 これって、日本人にとって、心地よいリズムと関係があるかも。五七五のような。
 一方、最近の赤ちゃんの名前、もう、とても漢字と読みが一致しないわね」

「赤ちゃんの名前、などのキーワードで検索すると、多数のサイトがヒットする。
 最近の親御さんの多くが、赤ちゃんの読み仮名を先に決めて、あとから漢字を文字の印象や画数などを元に決めるが、その際、あえて、個性的な漢字を選ぶ傾向にあるという。
 従って、同じ漢字でも、読み仮名は、多数にばらけるそうな」

「う~ん。
 近い将来、日本人の氏名の標準的な書き方をあらためる必要がありそうね。
 たとえば、「田中 悠人」、じゃなくて、「田中 悠人 はやと」的なものとして、字(あざな)、復活~」
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人にあらざるもの3 (IDとパスワード)

「これが現代の「人にあらざるもの」の名の代表的なものじゃ。
 IDやパスワードは、物理的な「物」ではないが、IDもパスワードも、物の「名」としか言い様がない。
 より、正確には、「ID」、「パスワード」という文字は、項目名で、その内容(中身)を決めることをここでは、名付けると言っているのじゃがな。
 インターネットが普及し始めた頃、そうだな、ちょうど、1996年~2005年の頃は、わしも、教室の生徒さん等に依頼されて、インターネット接続やトラブルシューティングを結構やっていたのじゃ。
 そこで、いちばん、困ったのは、IDとパスワード、特にパスワードが分からなくなってしまっていたことだな。
 ま、そもそも、「ID」や「パスワード」という用語自体がプロバイダーさんによっても、結構、バラバラで、同じプロバイダーの書類の中でさえ統一されていなかったりした。
 市販のテキストと比べた場合など、余計に混乱してしまった生徒さんもいる。
 それも無理はない。パソコンやインターネットが普及するまで、一般の方がIDやパスワードという言葉を知る必要は無く、概念を知っている人も極めて少なかった。
 「暗号」という言葉はご存じでも、パスワード(暗証番号)とは、少し異なる概念じゃからな。
 また、パスワードを「暗証番号」と説明しても、英数字(や記号)が混在する文字列を「番号」と直ちには了解できない方もおられた。
 パスワードを日本語で説明するとすれば、「合い言葉」が一番近いかも知れん」

「とは言っても、プロバイダーからの手紙や書類は、あったでしょう?」

「そこなんじゃ。そこと言っても井戸の底ではないぞ。(このセリフ、これで何回目かのう)
 そこは、最初のインターネット接続の時点では、ほとんど、問題はない。
 ところが、インターネットに接続出来ない、メールの送受信ができない、など、時間が経ってからトラブルがあったときじゃ。
 駆けつけると、何割かのお宅で、肝心のプロバイダーからの書類が見つからないのじゃ。
 一緒に探したりすると、見つかるので、やれやれじゃったが、一部の方は、プロバイダーに再発行してもらう必要があった」

「今では、インターネット経由で再設定ができることもあるよね」

「そうじゃな。メールパスワードなどでは、再設定できる場合もある。
 しかし、接続のパスワードが不明では、インターネットに接続出来ないのでどうしようもない。
 また、初期の頃は、手紙で再発行をしてもらうしかないところが多かった。いまでももっとも基本的なパスワードの設定はそうなっているところが多いと思う。
 まあ、最初の節の「諱(いみな)と字(あざな)」でたとえれば、
 IDは、字(あざな)で、関係者に教える必要があるし、たとえ、それ以外の他人に知られても、特に危険は少ない。
 一方、パスワードは、諱(いみな)に相当し秘密にしておく必要がある


「なるほど、それは、分かりやすいたとえね。
 えへへ、でも、それって、「字(あざな)と諱(いみな)」の話から始めないといけないから、余計わかんなくなっちゃうかもね。
 アニメの「ゲド戦記」(ジブリ)で登場人物が「真実の名」を秘密にしているとか、「真実の名」を知られると自由を奪われるとかいうエピソードが出てくる。
 真実の名とは、まさに、諱(いみな)でパスワードね。
 だけど、最初のインターネット接続の工事のときに、ちゃんと、おじさんが大切な書類をしまっておくように言わなかったんでしょ!」

「おいおい、わしは、ちゃんと、設定内容を紙に書いて渡すなどして、関係書類を大事にしまっておくように話しておったよ。
 もっとも、過ぎたるは及ばざるがごとしで、大切にしまいすぎてしまって、なかなか出てこない方もいた。
 しかしのう、いろいろなチラシやパンフレットなどは、出てくるのに、ホント、肝心の書類が出てこないのには、いらいらしたこともあるのう。
 で、わしは、悟ったんじゃ。『大事な物ほどなくなる』とな」

「そのうち、どんどん、IDとパスワードの組み合わせが増えたでしょう。
 ウイルス対策ソフトなどもそうだし」

「うん。
 ヤフーなどのWeb上のサービス用のパスワードとして、インターネット接続用のパスワードを無意識に使い回しする方もいて悩みは深まるばかりじゃった。
 IDとパスワード以外に、「秘密の質問と答え」なども新手として登場したからな。これがパスワードとどのように違うのかを説明するのは、骨が折れた。
 まあ、生徒さんには、必ず、メモに書き留めてから設定することをお勧めしてきたんじゃが。
 実際、きちんと、メモに書き留めている方は、数十パーセント程度じゃった。手帳等に書かれている人もいた。
 しかし、手帳は、いずれ新しくなってしまうのでな」

「今は、パスワード管理ソフトやパスワード管理のためのハードもあるよね」

「確かに。
 ただ、そのようなものを積極的に使う人は、意識が高い方なので、自ずと、トラブルが少ない。
 言い方は悪いが、そういう方面の意識が低い方ほど、なくしたり忘れたりしてしまうのじゃ。
 もっとも、必要以上に心配される方は、初期パスワードを変更するが、きちんと書き留めていない。
 パスワードの変更は、本来、望ましいが、不十分に書き留めてやったのでは、本当に分からなくなってしまう」

「不十分に書き留めるって?」

「走り書きした数字やアルファベットは、そのときは読めても、後日、本人が読めないのだな。
 わしも経験はあるがの」

「Excel等で作ってパソコン内のファイルとして保存した人は、パソコンのログインパスワードを忘れてしまうと書いたものを読むことができなくなってしまうね」

「一家に複数台のパソコンやタブレットがある方も増えてきたが、1台しかないお宅も結構多い。
 となると、そのような場合、パソコンのログイン(サインイン)パスワードを忘れてしまうとまさにお手上げとなってしまう。
 少なくとも、USBメモリー等に保存して、紙に印刷して大切に保管しておくことが必要じゃ」

「USBメモリーも壊れることがあるから、2つは、必要ね。
 あと、パソコンのログインパスワードは、指紋認証などの生体認証の機能があれば、代替できる場合もあるわね」

「銀行などのサイトでは、携帯・スマホ・ワンタイムパスワード発生器など別のハードを併用する2段階認証をとっている場合も増えてきている。
 しかし、これとて、1段階目のIDとパスワードは、必要じゃから、問題がなくなったのではない。むしろ、より複雑になってきている」

「今年から、「個人番号カード」(マイナンバーカード)(マイナンバーの通知書を受け取った方が申し込み後に役所の窓口で本人確認をしてもらって受け取るカード)には、パスワードを設定することになっているわね。
 具体的には、4桁の数字と電子証明書の利用には、これに加えて、6桁~16桁の英数字、がもう一つ必要とのこと。
 1.署名用電子証明書の暗証番号(e-tax などの各種電子申請用):任意
 2.利用者証明用電子証明書の暗証番号(コンビニ交付やマイナポータルのログイン用):任意
 3.住民基本台帳事務のアプリの暗証番号(住民票コードを記録し、住基ネット事務用):必須
 4.券面事項入力補助用のアプリの暗証番号(個人番号、氏名、住所、性別、生年月日を記録し、本人確認や改ざん検知のため):必須
 このうち、1は、6桁以上16桁以下の英数字、2~4は4桁の数字で、同じものにすることができます。
 とのこと。これは、ある区役所のホームページに記載されていた内容を引用したんだけど、今後のトラブルが心配な状況ね」

「お仕着せで、初期パスワードを設定しておいた方が良かったのではないかと思ったがな。
 マイナポータルの開設が2017年1月の予定なので、それまでのパスワードのトラブルは、役所の窓口や電話で対応するのは、大変そうじゃ。
 ところで、すでに、「マイナンバー」と「個人番号」という2つの用語が平行して使われてしまっている。
 個人番号が諱(いみな)でマイナンバーが字(あざな)だろうが、もう、「マイナンバー」だけでよいと思うがな」

「サイトも、政府広報オンラインがポータルサイト(http://www.gov-online.go.jp/tokusyu/mynumber/point/)、
 その内容は、文字や画像が大きいのはいいけれど、ちょっと、内容が簡単すぎでしょ。
 Facebook は、当面、ゆるきゃら的な「マイナちゃん」の宣伝ページみたい。
 twitter は、必要かしら。
 内閣官房のページは、たしかに詳しい。(http://www.cas.go.jp/jp/seisaku/bangoseido/)、
 そのほか、といくつか見たけど、帯に短したすきに長し的ね。
 ま、難しいのは、分かるけどさ。
 特に、2つの暗証番号の必要性と使い分けについて、正確な情報は、少ない。
 一億われらが国民が、こいつを理解して使いこなすには、さらなるスキルアップが必要だぜ」

「ま、地デジの時もなんとか乗り切ったのじゃから、走って行くしかあるまい。
 今後は、中学校や高校で、IDとパスワードの授業も必要じゃな。
 いずれにしても、失敗したら、マイナンバー導入のチャンスは、もう永遠に来ない、というぐらいの覚悟が必要じゃ」
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人にあらざるもの4 (数学・物理の変数名)

「小学校から中学校に上がって、算数から数学と名前が変わった。
 と、同時に、変数 x (エックス)が現れたのじゃな。
 前節までの「名」と異なり、冷たいというか、シンプルじゃ。
 リンゴやバナナといった物の「名」にしても、実際は、抽象的なグループ名なんじゃが、変数は、さらに抽象的になっている。
 変数の対象がなんであれ、それらを同一の x であらわすことにより、方程式が統一され解法の見通しが良くなるメリットは、大きい」

「えーと、昔から、疑問に思っていたんだけど、なんで、数学では、変数をx(エックス)で表すことが多いのかしら?」

「ウィキを参照すると、かの「デカルト」に始まるということじゃな。
 デカルトは、未知数として、x, y, z などを使い、定数としては、a, b, c などを使ったとある。
 その後、X は、未知の事柄を表すようにもなり、たとえば、レントゲンの発見当時(1859年)は、その正体が分からなかったので「X線」と呼ばれたものは、その後、波長が、0.01×10^-9~10×10^-9メートルの電磁波と分かった。
 
また、推理小説では、文中で、いちいち、犯人、犯人と連呼せずに、X と書くことがある。
たとえば、1932年(昭和7年)ニューヨークで刊行された「Xの悲劇」(エラリイ・クイーン 著:田村隆一 訳:角川文庫:1966年(昭和41年)9月第7版)など、枚挙にいとまがないほどじゃな」

「ある種の習慣ということね。
 複素関数論では、普通、複素変数を zで書き表すし」

「そうじゃな。
 余談だが、日本では、ある項目に不足している物とか追加することを「プラスアルファ」と呼ぶじゃろう。
 これは、原語では、アルファは、x と書かれていたが、α と見間違えたのだそうだ。ちょっと、冗談みたいな気がする話じゃがな。
 ま、数学で使う変数の名は、x やy でなくても良いが、x やy を変数名として使えば、書く本人も使いやすく、また、読む側も理解しやすいというメリットは大きいじゃろう」

「一方、数学以外の物理などでは、ある程度、意味のある文字を使用するような気がする。
 たとえば、速度を v で表したり、圧力をp と書いたりするわね」

「うん。
 同時に複数の変数名を利用する必要もあるじゃろうが、実験や観測データとの比較などの際に分かりやすいというメリットは、大きいと思う」
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人にあらざるもの5 (プログラム内の変数名)

「プログラミング言語と言っても、わしの知っているのは、COBOL、Pascal、Basic のプログラム記法ぐらいじゃから、断定的なことは、言えないが、変数等の名前の標準的な付け方は、数学や物理などとは、大きく違っているな」
「変数等に意味のある名前を付けるように言われるわね。
 ただの a1とか x などではなくて」

「そうじゃ。
 一般には、変数が多いため、可読性を増す必要があるからじゃろう。
 いくらコメントを付しても、変数名があまり意味のない文字列では、書いた本人でも、時間が経てば、判読が困難になる。
 まして、他人に読んでもらうことは、難しい」

「そこで、ローマ字や英語の文字列の一部を利用するのね」

「合計をTotalとかGokei などとする方法じゃ。
 とはいえ、整数のループ変数などは、単純な i とか、j を利用することも多い。
 個人的には、そういう変数にも意味のある名前を付けるのは、やや行き過ぎのように思う。
 また、意味のある名前といっても、言語の「予約語」(利用できない文字列)と重複しないようにしないといけない。
 なので、英語のつづりではなく、あえて、ローマ字の一部を使用する方がお勧めではある。
 なぜなら、プログラミング言語の仕様は、英語で作られている(ことが多い)という事情があるからだな。
 他には、大域変数は、Pで始めるとか、個人や組織で命名法を別途決めている場合は、それらに従うなどの必要はあるじゃろう」

「変数名等に日本語は使えないの?」

「日本語を利用できる場合もあるが、日本語変換の手間や実行時エラーなど思いがけないエラーの原因になりかねないので避ける方が良いじゃろう」
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終わりにあたって

 今回は、いろいろな「名」を取り上げてみました。ご覧いただきありがとうございました。
  私たちがいかに「名」を付けることに腐心し、多かれ少なかれ、その名に縛られてきたかが分かります。
    では、次回も、本欄で元気にお会いできますことを願っています。
    なお、マイクロソフト社によれば、2016 年 1 月 12 日 (米国時間) 以降、各OSでサポートするインターネットエクスプローラのバージョンは、それぞれのOS毎の最新版のみとなります。
  現在、 Windows Vista  SP2 は Internet Explorer 9 、Windows 7 SP1 、 8.1、10は、Internet Explorer 11 が最新版です。 念のため、ご確認ください。

  バージョンは、インターネットエクスプローラのメニューバーのヘルプからバージョン情報とたどることで分かります。
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