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笑い話

更新日:2018/3/5

五十万両盗まれる

これまでに「今月のご挨拶」に掲載してきました「笑い話」を独立させたものです。
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・ 五十万両盗まれる
 七五郎 「親分、てぇーへんだ、てぇーへんだ」
 半次 「なんだ、七かい、朝っぱらから、騒々しいじゃねぇか」
 七 「親分、これが、落ち着いていられますかってんです。
  聞いて、驚かないでくださいな」
 半 「お前のてぇーへんだは、いつものことだからな。
  こっちも、そう、やすやすとは、驚かねぇ」
 七 「じゃ、言いますが、五十万両が盗まれたというんですから。
  親分も、これには、驚くでしょう」
 半 「七よ、そいつは、五十両の間違いじゃねぇのか。
  五十両でも、おれらにとっては、大金には、違ぇねぇが」
 七 「とんでもありませんや。
  五十万両、ここから、びた一文も、まかりませんぜ」
 半 「お前が、そこで、威張って言っても、どうにもなるまいさ。
  ま、上がって、茶でも飲んで、順を追って、話してみろ。
  その盗人は、いったい、どこから、そんな大金を盗んだんだ。
  まさか、お城のご金蔵を破ったわけでもあるめぇ?」
 七 「あっしも、はじめは、そうかと思ったんですが、違いました。
  なんでも、『とりひきじょ』からだそうです」
 半 「とりひきじょだと。
  なんだい、それは」
 七 「よく、わかりませんや。
  この知らせには、そう書いてあるんで」
 半 「ふ~ん。
  取引って言うと、米や麦の取引かな。
  米の取引なら、大金があるかも知れんな」
 七 「さすが、親分。てぇーしたもんです。
  なるほどね。米問屋かも知れません」
 半 「しかしだよ。
  おめぇは、見たことねぇかもしれんが、千両箱ひとつでも、結構な、かさと重さがある。
  五十万両と言えば、千両箱いくつになるか、わかるか」
 七 「親分、あっしを甘く見ちゃいけませんや。
  五つで神童、十で秀才、十五過ぎたら、ただの人ですよ。
  五十万個、はい、これが正解」
 半 「七五郎、おめぇを見直したぜ。
  そこまで、馬鹿かい。
  いいかい、仮に、ここに一両あるとすると、百枚で百両は、わかるだろ」
 七 「分かりますよ。
  でも、茶碗が二つしか見えませんが」
 半 「だから、仮に、といっているだろう。
  さてと、百両が十個で千両なのだな。
  そいでもって、千両箱が十個でいくらになる」
 七 「そりゃ、一万両です。
  へ、へ、へ。千両、万両、めでたいね」
 半 「何、一人で笑ってやがるんだ。
  気色悪いな。
  つまりだ、一万両は、千両箱が十個なのだ。
  五十万両はというと、その五十倍、つまり、千両箱が五百個、となるんだな。
  どうだ、分かるか」
 七 「はあ、なんとか、ついて行けてます。
  そうか、千両箱が五百個か。
  じゃ、てぇしたことじゃなかったな」

 半 「七、おめぇは、真底、馬鹿かよ。
  いいかい、一両を後世の十万円と、勘定すれば、おおよそ、五百億円以上だぞ。
  でぇいち、五百個の千両箱を運ぶのに、どんだけの人手がいると思う。
  おめぇは、一人で運べるかよ」
 七 「そいつは、無理でしょうね。
  いったい、どれほどの目方になるんですかい」
 半 「千両箱は、ざっと、米俵の四半分ぐらいだ。
  だから、米俵、百二十五個ぐらいにはなるかな」
 七 「へー、そいつは、たいそうな目方ですな。
  親分は、捕り物だけじゃなくて、算術の方も達人ですね」
 半 「おめぇに褒められても、うれしくはねぇがな。
  そいでもって、盗人らは、何人ぐらいだったんだ」
 七 「そいつは、この知らせでは、はっきりしませんや。
  誰も、見た者がいねぇそうです」
 半 「じゃ、夜中に忍び込んだんだな。
  店の者は、寝ていたのか」
 七 「あー、知らせには、ねむ、と書いてありやすから、そうかもしれません。
  なるほど、よほど、眠かったので、ねむ、ですかな」

 半 「ま、百個以上の千両箱と言えば、運び出すのに、盗人も五人から十人は、手が欲しいところだ。
  かなり、名の知れた盗人の仕業と見て、間違いねぇだろう」
 七 「確かにね。
  しかし、どこへ隠したんでしょうな」
 半 「こいつは、舟が絡んでいると、おいらは、にらんだよ。
  いいかい、米問屋と言えば、おおかた、川沿いだろう。
  そこから、舟で運び出すという寸法だ。
  とは言え、千両箱が百個以上を一つの舟には、載せられねぇ。
  おのれらも乗るわけだしな。
  小舟の五隻から十隻は、いるわな」
 七 「早速、舟が使われていねぇか。
  それに、船頭もいるわけですから、そっちからもあたってみやしょう」
 半 「そうだな。
  しかし、大川に出て、そいで、どこに行くかだな」
 七 「上方にでも、運んだんでしょうか」
 半 「いや、それなら、どこかで、小舟から大船に積み替えねぇと、いけねぇ。
  いったん、人目につきにくい場所で、おかに上がって、千両箱を何かの荷駄に積み替えて、大船に運んだのかも知れねぇ。
  天下堂堂だな」
 七 「親分!、こいつは、もしかするてぇと、裏で、例の薩摩の奴らが糸を引いているかも知れませんぜ」
 半 「ことによると、そうかもしれねぇ。
  よし、俺は、そっちをあたってみよう」
 半次、七五郎、きばれ、チェスト! 

・ 五十万両盗まれる(続)
 七五郎 「てぇーへんだ、てぇーへんだ」
 半次 「どうした。
  なにか、つかめたか」
 七 「そいつが、どうも、妙なんです。
  なんでも、盗まれたのは、小判じゃねぇそうなんです」
 半 「じゃ、いったいなんでぇ。
  銀か珊瑚か骨董品かなにかかい」
 七 「それが、かそうか、というものなんだそうで」
 半 「なんだと。貸そうか、だと。
  七、おめぇ、人様に貸すほどの銭を持っているのか?」
 七 「いえね、貸す、貸さないの貸そうか、じゃなくて、
  こう、「仮想貨」と書くんだそうです」
 半 「ほー、文字は、ま、分かったが、
  仮想貨たぁ、なんだい」
 七 「あっしも、わかりませんが、その筋の詳しいもんに聞いたところでは、
  目には見えねぇが、確かにある、お足のことだそうです」
 半 「そいつは、俺も、生まれてこの方、聞いたことがねぇな。
  その仮想貨っていうのは、目方は、どれほどだい?」
 七 「それが、目方も、ねぇらしいんで、
  こいつは、あっしも、おかしいな、とは、思うんですが」
 半 「するってぇと、目には見えねぇ、目方もねぇ、ということかい。
  じゃ、宙のかすみか雲のようなものか。
  まさに、雲をつかむような話だな」

 七 「ははは、雲とは、親分も、うまいね。
  おっと、一句浮かびましたぜ。
  『仮想貨や 雲かかすみか クラウドへ』 」
 半 「七、おめぇ、ほんと、長生きするぜ。
  五十万年ぐらい、生きそうだよ。
  まてよ、手形のように、紙に書いたもんかもしれんな。
  それなら、目方も小判と比べりゃ、ないと同じだ」
 七 「なるほど。
  それなら、あっしも、合点です。
  この節は、お江戸と上方の商人との間で、しきりと、やりとりしてますよ。
  割り符を持って行った者に金を渡すもんですね」
 半 「そうよ、それに違ぇねぇ。
  しかし、それにしても、店の者がみな寝静まっている内に、主人だけ起こして、脅して書かせたものかな」
 七 「でも、なんで、もっと、安い金高にしなかったですかね」
 半 「そうだな。
  いくら、盗人でも、五十万両たぁ、法外な額ということは、分かるだろうからな。
  盗人の方から、口には、する額じゃないな」
 七 「そうでしょ。
  いくら主人を脅して書かせたところで、あり得ない額じゃ。
  盗人も、みすみす、損しますからな」
 半 「もう、ちっと、調べてみてくれ」 
 七 「分かりやした。
  なお、念を入れて、探りを入れてみましょう」
  半次、七五郎、きばれ、チェスト! 

       

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