ここのところ、主として、平面上の図形の移動や回転を数式処理ソフト DERIVE(デライブ)で行ってきましたが、ここから、その運動を調べていきましょう。
「運動方程式と言えば、ニュートンね」
「そうじゃのう。ニュートンが、かの有名な「プリンキピア」を発表したのは、1686年とされておる。
すでに、太陽と惑星との間の力が逆2乗則に従う力じゃという認識は、広まっていたようだ。
しかし、その力から天体の運動、すなわち、ケプラーの法則がどのように導かれるのか、は不明じゃった」
「ケプラーの法則って何だっけ?」
「第1法則は、惑星は、太陽を一方の焦点とする楕円周上を運動する。
第2法則は、太陽と惑星とを結ぶ直線が単位時間に平面を掃く面積は、一定である。
第3法則は、惑星の公転周期の2乗と軌道の長径の3乗との比率は、一定である。
これらは、ケプラーがティコ・ブラーエの観測結果を基に発見した法則じゃ」
「そのケプラーっていつ頃の人なの?」
「ヨハネス・ケプラーは、ティコ・ブラーエの弟子じゃったが、師の観測結果をまとめて発表したのは、1627年頃らしい。(「歴史をたどる物理学(東京教学社)」より)。だから、ニュートンのプリンキピアが出る60年ほど前ということになるの」
「60年も前なの?」
「まあ、今と違って、その当時は、情報が伝達されるスピードもゆっくりとしていただろうし、情報の共有も十分ではなかったじゃろう。
しかし、昔の科学者、たとえば、ガリレオなどの時代から、だんだんに「物体の運動」に対する理解が進んできて、ニュートンにいたって、ついに大きな扉が開かれたといういえるのではなかろうか」
「先ほどの本によると、ニュートンは、プリンキピアを出すだいぶん前から、このことを知っていたようなのね」
「そうじゃのう。ニュートンという人は、慎重な人じゃったようだから、十分に理解を深めたかったのではないかな」
「運動方程式は、F=mαだわね」
「そうじゃ。力と加速度が比例する。その比例定数にあたるものが、質量である、ということを示したものじゃ。
当時、力が大きさと向きを持つ量であるということは、分っていたようじゃ」
「力の定義ではないのね」
「定義といってはつまらなくなるの。原因と結果を結びつけた方程式ととらえてほしい。
ま、確かに力の単位の「ニュートン」は、1kgの質点に1m/s^2の加速度を与える力となっておるが、力の概念自体は、我々が天然自然に知っているのじゃないかな。数学でいえば、無定義用語にあたると思っても良い。
一方、加速度は、速度の微分という明確な定義を持っている。質量は、というと、そう、質量、正確には、慣性質量というが、この式で定義される量であるの」
「ふつうの質量と慣性質量は違うのかしら?」
「もう一つの質量は、重力質量といわれる。
地表の質点に働く力は、万有引力常数をG、地球の重心からの距離をR、地球の質量をMとして、m×G×M/R^2じゃが、このときのmが重力質量とよばれるものじゃ。必ずしも先ほどの慣性質量と同じ値とは限らないと思われたが、測定すると等しいのじゃな。
これがアインシュタインの「等価原理」を生み出すきっかけになった。すなわち、重力は、加速度が質点に与える力(慣性力)と等しい性質を持つということじゃ」
「ふ~ん。難しくなったわね」
「そうそう。肝心の運動方程式をDERIVEで扱ってみようというテーマに戻らねばならぬな」
「じゃ。惑星の運動ね?」
「いや。いきなりでは難しいじゃろう。まずは、水平にバネで固定された質点の運動という基本的な問題からやってみよう」
「これは、おなじみの問題ね」
「質量mの質点位置の伸びを右向きに正として、xで表すと、運動方程式は、mx''=-kxとなる。ここで、変位が小さいとして、バネからの力は、xに比例すると考える」
「この解は、単振動だわね。x=a×sin(ωt+α)。
ここで、ω=√(k/m)、初期位置がx=0であれば、α=0、初速度がvであれば、a=v/ωとなるので、x=(v/ω)sin(ωt)」
「そう。これをDERIVEで扱ってみようというわけじゃな。そのためには、この微分方程式を解かなくてはならぬ。
まずは、この式をDERIVEに入力する方法じゃが、単純には、xを時間tの関数として、宣言する。これは、次のようにする。
x(t):=
次にx(t)とだけ、入力して、解析メニューから微分を選択して、変数tで2階微分する。それを-kx(t)と等しいと置く事じゃ」
「両辺にx(t)’を掛けるのね」
「そう。両辺を別々に積分する。
これは、たとえば、左辺が選択された状態で数式入力行をクリックして、F3キーを押して数式入力行に左辺のみが貼り付けられたら、エンターを押すと数式シートに表示される。これを0~tまで、定積分する。
結果は、x'(t)^2/2 - SUBST(x'(t), t, 0)^2/2 = k(x(0)^2 - x(t)^2)/2となる。
初期位置をゼロ、初速度をvとすると、式の置換を使うなどして、
mx'(t)^2/2 -m v^2/2 = - kx(t)^2/2となるので、エネルギー保存が成り立っているのが分る。
さらに、x'を縦軸、xを横軸にとると、x'^2/v^2+x^2/(v/ω)^2=1となり、横径(v/ω)、縦径vの楕円を表す。楕円の面積は、(πv^2)/ωとなり、周期T=2π/ωとすれば、面積は、Tv^2/2であるの。
これから、dx/(√(v^2-ω^2x^2)=dtと変数分離形に変形できるので、積分すると、x(t)=(v/ω)sin(ωt)であることが出てくる」
「楕円が出てくるところは、面白い。バネの力が線形だからかしら」
「そうじゃな。少し、横道じゃが、非線形項がある場合は、こうなるの。
非線形項を-bx^3とする。bは、正とする。
このときは、m(y^2 - v^2)/2 = - z^2(bz^2 + 2k)/4となる。ここで、yは、x'(t)、zは、x(t)じゃな。
そして、y、すなわち、速度がゼロとなるのは、bz^4 + 2kz^2 - 2mv^2 = 0から、x=±√(√(2bmv^2 + k^2) -
k)/√bの時であることが分る」
「非線形項があってもエネルギーは、保存するのね」
「次回は、別の解法を取り上げよう」
※上記の一部の数式(青色)に間違いがありました。2007/5/2に修正しました。
※「プリンキピア」(正)とすべきところを「ピリンピキア」と誤記しておりました。ご連絡いただきましたR.N氏に感謝申し上げます。
(2013/5/16に訂正しました。)