会員の皆様へ(2011年6月のご挨拶)

面白・お役立ちソフト 詠太(えいた)/ 東日本大震災のポイントの整理

目次

 現実は厳しい?
 音声読み上げソフト・詠太(えいた)
 詠太の利用(一太郎)
 詠太の利用(インターネットエクスプローラ)
 詠太の利用(テキスト)
 詠太の辞書作成ツール
 ソフト音源:ボーカロイド(初音(はつね)ミクなど)
 終わりにあたって
 2011.3.11「東日本大震災」のポイントの整理

現実は厳しい?

近隣のお宅の駐車場の万年塀に児童の描いた絵があります。そのなかに面白い2枚がありましたので、スナップを撮って上掲図としてアップしてみました。
 聞くところによると、この塀に何も描かれていないときは、暴走族などが書いたと思われる「いたずら書き」が絶えなかったそうです。そこで、地主さんが10年ぐらい前に近所の学校(多分、小学生と思います)の生徒さんに壁面に絵を描いてもらったところ、それ以後、ほとんど、いたずら書きがなくなったとのことです。上図の2枚を含めて、約20面ほどの絵があります。
 アニメのキャラクターぽいものや怪獣らしきもの、海の中や宇宙人など、いずれも、子供でないと描けないな、と思われるものばかりです。
 その中で、異彩を放っているのが上の2枚です。少し、離れた位置にあるので、別々の「作者達」でしょう。
 左側は、「男の子と女の子とが一致協力!」、といったポーズです。画題「理想」とでもいいましょうか。
 一方、右の絵は、「うさぎとかめ」の一場面のようですが、「うさぎ」が女の子、「かめ」が男の子、という、面白い構図となっています。
 「男は、ぐずね。置き去りよ、先へ行くわ!」という女の子からのメッセージのように思えて、ちょっと「にやり」とさせられます。画題「現実」といったところでしょうか。
 時間の経過と共に徐々に色があせてきています。これを描いた子供達もそろそろ、大人になりつつあるでしょうが、実際は、どちらに近いと感じているか聞いてみたいですね。
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音声読み上げソフト・詠太(えいた)

主として、目の不自由な方向けの「音声読み上げソフト」というものがあります。
 もちろん、晴眼者の方も、自分や他人が書いた文章を読み上げさせて、画面あるいは印刷した紙を見ながら一人で校正するときに重宝します。
 今回、ご紹介するのは、ジャストシステムから発売されている「一太郎2011」のプレミアム版又はスーパープレミアム版に付属している「詠太」(えいた)というソフトです。
 これは、かなり自然な朗読を行ってくれます。
 ジャストシステムのホームページによれば、「詠太」は、HOYA株式会社のソフトウェアである、「Voice Text」の技術を使っていると説明されています。
 HOYAは、レンズなどの光学機器メーカーですが、このソフトには、驚きます。
 一太郎をお持ちでない方も、下記のホームページで、直接、Voice Textのシミュレーションが行えます。日本語以外に、韓国語、中国語、英語、スペイン語に対応しています。
 なお、詠太では、日本語のみとなります。話者は、女性:SAYAKA、MISAKIと男性:SHOWの3人から選択できます。(エイタは、いない!)
 HOYAのホームページ:http://www.hoya.co.jp/
 Voice Textのホームページ:http://voicetext.jp/
 人間の音声を収録したデータベースを元にして、発声しているらしいのですが、自然な抑揚と無理のない発声です。すべての音がコンピュータの合成音ではないところが面白い。
 普通、すべて音を合成して表現したいと思うでしょう。それは、それで、非常に意義のある事だと思いますが、やはり、人の話す声の細部までを自然に作るのは、文章を解析して、単語を切り出した上での、限られた時間では、現在のところ無理なのでしょう。そこを無理に進めずに人の声で補うという発想が当たり前のようでいながら、たぶん、技術的には、かなり難しいと思われます。それを乗り越えての成果です。
 余談ですが、地デジ7chの「モヤモヤさまぁず」のナレーションのイントネーションに似ているとの評もあります。http://www.tv-tokyo.co.jp/samaazu2/
 「もやさま」の方が、時期が早いようで、音をあまり抑揚をつけずに発声すると似てくるのでしょうか?
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詠太の利用(一太郎)

一太郎2011では、「詠太」がアドインソフトの一つとして、常駐します。
 
 この「詠太」というボタンをクリックすると、音声読み上げがスタートします。読み上げている段落は、黄色い網掛けが一時的にかけられ、どこを読んでいるのかが、明確になっています。

 上図は、一太郎における、宮澤賢治作「風の又三郎」の一節が読み上げられている状態です。
 なお、「風 の 又 三 郎」のように空白文字があると「かぜ の また さん ろう」のように読み上げてしまいます。
 空白がないと「かぜのまた さぶろう」のように、ほぼ、正しく発声できます。残念ながら「またさぶろう」とは発声できません。
 しかし、後述の「辞書作成ツール」を利用して「又三郎」を「マタサブロオ」のように登録すると、「またさぶろう」を人間が読み上げるときとほぼ同様に発声させられます。
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詠太の利用(インターネットエクスプローラ)

「詠太」は、インターネットエクスプローラVer 8のアドインソフトとして、登録できます。
 
 上図の「詠太」の読み上げボタンを押すと、面白いようにホームページを読み上げさせることができます。
 ただ、一太郎のように、読み上げ位置を黄色く反転させて明示することはできないようです。
 なお、あらかじめ、カーソルでページ上の必要範囲を選択しておくと、その部分だけを読み上げることができます。 
 読み上げできる文字ですが、アルファベットは、英語としての単語単位、漢字は、日本のシフトJISコードにあるものは、その漢字の音として、読み上げることはできます。
 シフトJISにない漢字などは、その部分が無声となります。また、英文としての滑らかな発声は、本家のHOYAサイトのようにはいきません。英語の単語を連続的に発声するだけです。ここは、残念ですが、やむを得ないでしょう。
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詠太の利用(テキスト)

「詠太」を単独に利用する場合です。
 一太郎で読み込めない文書をコピーして、詠太のウインドウに貼り付けることができます。
 
 上図で、白い部分にテキストを貼り付けるか、直接、入力します。
 右向き三角を押すと、読み上げがはじまります。止めるときは、四角いボタンをクリックします。
 ここのヘルプから、
 『注意 テキストをファイルから挿入する場合、次の注意事項があります。 読み込むことができるファイルの文字コードは、シフトJIS・UTF-8・Unicodeです。
一太郎文書のようなバイナリーファイルは、文字コードをシフトJISと見なして挿入します。 文字コードがEUCのファイルは正しく読み込めません。
読み上げることができるのは、シフトJISコードの範囲内です。Unicodeだけにしかないなど、シフトJISに置き換えられない文字は、読み上げることはできません。 』とあります。
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詠太の辞書作成ツール

「詠太」の「辞書作成ツール」ボタンをクリックすると、下図のような単語登録のようなダイアログボックスが現れます。

 ここで、たとえば、=をイコールと発声させたい場合は、「追加」ボタンを押して、「単語」として「=」を、発音として「イコール」と入力します。
 どのような発音となるかを「読む」ボタンで聞くことができます。
 前述の「又三郎」は、「マタサブロウ」よりも「マタサブロオ」と発音を入力した方が自然な発音となりました。
 ヘルプを押すと、詳細な入力規則と読み上げる基準を知ることができます。
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ソフト音源:ボーカロイド(初音(はつね)ミクなど)

読み上げソフトとは、別のジャンルとして、ソフト音源(ボーカロイド(VOCALOID))という、ボーカル・シンセサイザーとアンドロイド(=人間型ロボット)という英語を結び付けた商品があります。
 ヤマハが開発したものです。このヤマハからライセンスを受けて、クリプトン・フューチャー・メディアから販売されているソフトとして、「初音ミク」が有名です。
 「初音ミク」は、歌声だけでなく、ビジュアルな画像として、あるいは、動画も開発されて、ソフト音源に止まらない社会現象にまでなっています。
 下記のページから、そのサンプルミュージックを聴くことができます。人間の歌う声のように聞こえますね。
 同社のURLは、http://www.crypton.co.jp/となります。
 初音ミク以外に、
 「インターネット」:http://www.ssw.co.jp/
 「AH-Software」:http://www.ah-soft.com/
 「キューンレコード」:http://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/kioon/ (ソニーミュージックグループ)
 からも、続々と、ボーカロイド達が登場しています。オリコンチャート上位にも載るほどで、もう、「バーチャル」とも言えません。
 「詠太」にも歌わせることができるのか?
 いやー。歌にはなりませんな。逆に「初音ミク」に朗読をさせるのは、難しいようです。
 このあたりは、「週刊アスキー」の2011年5月3日号に「ボーカロイドの現在と未来」と題して、ヤマハの研究開発センター 音声グループマネージャーの剣持秀紀氏による、開発秘話から人気動画までの記事が掲載されています。ご興味のある方は、ぜひ、ご一読下さい。
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終わりにあたって

今回もご覧いただき、ありがとうございました。
 また、来月も、本欄で元気にお会いできますよう願っています。
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2011.3.11「東日本大震災」のポイントの整理

2011年(平成23年)3月11日に発生した「東北地方太平洋沖地震」による「東日本大震災」では、2011年5月27日現在、警察庁のまとめによると、死者 15,247名、行方不明者は、8,593名となりました。死者・行方不明者の総数は、2万人を超えてしまいました。
 ここに、あらためて、亡くなられた方々のご冥福をお祈りすると共に、被害に遭われた皆様には、謹んでお見舞い申し上げます。
 なお、原子力発電の是非について、当分の間、本欄では、多くを取り上げないことにします。
 確かに、福島原子力発電所の炉の設計、施設の位置、津波への対策、緊急時の対応等に見落としや手抜かりがあったことは、否定できない事実かと思われます。また、現行の法令や規則、また、発電所への監視に対しても疑問符が付きました。これらに対して、早急な措置が必要なことは、多言を要しません。
 また、中長期的な視野では、太陽光、風力、地熱、海水温度差、波力などによる電力の確保も重要な事柄です。
 しかし、そのこととは別に、私は、過ちを冒しやすい人間の一人として、東京電力、同 福島第1・第2原子力発電所において、日々、格闘されている人たちを、せめて、もう少し、暖かい目で見げられないものかと痛切に感じています。また、他の電力会社や関連会社より、福島に支援に行っていらっしゃる方々も多くいます。個々の会社だけでなく、国や都道府県も彼らを物心共にバックアップしてあげて欲しいと思います。
 これだけで、この節を閉じるつもりでしたが、2011/5/27、東京都が、再来が予想される次の「関東地震」による津波の予想高さを再検討するとのNHKの報道がありました。
 この報道(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110527/k10013143321000.html)によると、東京都では、津波の想定高さを最大1.2mとしており、それに伴い、堤防高さは5m以上となっているとのことです。
 この津波の最大高さ1.2mは、おそらく、1923年9月1日(大正12年)の関東大震災(注1)を参考にしたものと思われます。この数値の低さと今回の震災を契機に見直す(見直しは大歓迎ですが)という悠長さには驚きます。
 福島の原子力発電所だけではありませんでした。「想像力」の乏しさに呆然たる思いです。
 福島の東京電力原子力発電所の事故については、今後、詳細に分析される予定です。委員長には、「失敗学」の権威である「畑村洋太郎」氏が決まりました。
 今回の「東北地方太平洋沖地震」が、ここまで大規模に起きるとは、専門家も「想定」していなかったのではないかとも思われますので、その部分だけをとれば、「想定外」の天災と言えないことはないでしょう。
 しかし、三陸沿岸のみならず、他の地域において「津波」による被害は、過去に多く発生しています。福島原子力発電所のメルトダウンの原因は、この津波の高さを過小評価し、発電所全体の位置が低かったことが第1の原因でしょう。第2には、津波高さの過小評価に伴う電力設備の水害への対策不足、第3には、電力用鉄塔の倒壊などによる電力線の切断時の電源バックアップ体制が不十分であったこと、第4には、電源完全喪失時の訓練及び対応する設備・装備の不備などが主な原因として取り上げられて検討されるものと思われます。
 さて、今回の震災について、主なポイントを整理してみましょう。 

対象 ポイント 説明 備考
地震 規模(マグニチュード)が大きい 日本とその近傍での地震規模は、最大で、M8.6の宝永地震(注3)程度までであろうと考えられていたが、今回の地震規模は、M 9.0とされた。
その理由は、ほぼ、同時に3個所の破壊が進行した結果によると考えられている。
 M8.6程度の上限値は、地殻の弾性限界から決まるとされているが、広い範囲の複数の個所で破壊が進行するとこのようにM 9クラスの地震もあり得るという例であろう。(注2)
地震 震源域が広い 北は岩手県沖から南は茨城県沖までと非常に広い。 震源位置は、明治三陸地震津波 東経144、北緯39.5
昭和三陸沖地震 東経145.1、北緯39.1
今回 東経142.51、北緯38.6。
地震  内陸型の地震を誘発した 3/12に長野県北部で強震発生、3/15にも静岡県東部で強震が発生した。  安政南海地震・安政東海地震の翌年に安政の江戸地震発生。
今回も数年は、警戒が必要であろう。
地震 揺れが長く続いた  青森県から神奈川県にかけて、震度4以上の揺れが2分以上続いた地域が多かった。 いわき市小名浜では、190秒つづいた。
東京都に住む私も、物心ついてこの方一番長いと感じた。
津波 三陸沿岸で特に高いが全国的にも大津波を誘発 明治三陸地震津波(1986/6/15)と同等又はそれ以上の高さの津波が襲来した。
東京湾の晴海でも、高さ 1.5m(NHKニュース)を記録した。
昭和三陸沖地震(1933/3/3)でも、三陸沿岸は津波で大きな被害がでた。
チリ地震津波(1960/5/23)の波高は6m以下。チリ津波の記憶がある人々の中には、今回、同程度と考えて逃げ遅れた例もあるようだ。
津波 津波警報が短時間に改訂された  当初、三陸沿岸で5~6mという大津波警報が発令されたが、短時間のうちに改訂が繰り返された。
今後、気象庁は、海底の圧力計などを活用して、早期に津波の規模をより正確に捉えるとのことである。
停電と相まって、避難が遅れたり、3階程度の低層ビルに避難して、津波により亡くなった方もでた。 
逆に、明治三陸地震津波などの伝承を元に高台に住宅を作って助かった集落があったり、避難の時は、てんでに逃げるという意味の「津波てんでんこ」で逃げた家族が助かったりと、様々な事例があった。これらを的確に検証して、後世に伝える必要がある。
今回は、地上での震度も大きかったが、陸上の震度が小さいからと言って津波が低いとは言えないので注意が必要である。
停電 東京電力、東北電力管内で停電が多発した  特に東北電力の鉄塔が一部倒壊したことにより、福島第1及び第2原子力発電所への給電が喪失する事態が発生した。  福島県の東電原子力発電所では、受電設備や非常用発電機も津波による海水を被って使用不可になったことが、その後の非常事態を招いている。
東北電力の女川原発の場合は、施設の設置が津波の襲来高さより、わずかに高かったため、なんとか、無事に冷温停止状態に持ち込めた。
停電 テレビが使えなくなった地域が多く出た  テレビにより津波情報を得ることができない人たちや学校などに避難した生徒達の中で早期の避難が遅れた方がでた一因となったと思われる。 ラジオは、受信可能であったので、非常時に備えて、ラジオは、必需品であると痛感した人が多かった。
震災後、しばらく電池が店頭から消えた。買い過ぎたと思われる。現在では、店頭に電池などはほぼ並んでいる。
停電  東京都では多くの帰宅困難者が発生した  JR線や地下鉄などが長時間にわたって停止したため、都心などから郊外へ帰宅できなくなったり、帰宅できない人の宿泊場所に困った。
地区によっては、区の体育館や公民館などを開放したところもあったが、対応がばらばらで各区任せとなってしまった。 
大都市での帰宅困難者への対応をどうすれば、よいかを実地に体験したことにもなった。
各市町村や市民は、この経験から学んで、次回には、よりスムーズに対応できるように準備する必要がある。
電力不足 原発の停止により最大発電量が不足  夏に向けて昼間の電力需要が高まる中、原発が廃炉や停止、点検中などのため使えなくなっている発電所が増加している。
東電をはじめとして、液化天然ガスなどの火力発電の追加で当面の需要を乗り切る予定であるが、政府は、電力制限令を発動して、強制的に大口需要者の需要を抑えることを決定した。これを受けて、産業界や官公庁では、自主的に時間をずらすなどの工夫をはじめている。
家庭でも、15%~20%程度の節電努力が求められている。
計画停電や非常時の停電に備えて バッテリー付きテレビの需要も出ている。
非常用発電機や家庭用大型蓄電池の需要も発生している。
家庭用を含めて、産業界に太陽光発電への関心と需要が急速に高まっている。
原発 浜岡原子力発電所が停止 菅首相の決断による要請を受けて、中部電力は、静岡県にある浜岡原子力発電所を停止した。 浜岡原発は、東海地震で大津波などの被害を受ける可能性があり、当面、津波対策のためのより高い堤防の構築まで停止することになった。
東海地震が起きる確率が他の地震と比較して大きいという理由もある。
ただ、大地震の「生起確率」については、サイコロの目の出る確率などと同様に考えられるか疑問は残るが安全を優先した判断(注5)は評価できる。
電力不足 東西の電力会社の周波数の違いが問題化 静岡県を境にして、東は、50Hz、西は、60Hzという電力の周波数の違いがあるため、関西電力等から東京電力などへの、東西間での電力の融通において技術的な限界がある。 早期にどちらかに統一する必要がある。
データ 戸籍データの一部が消失  役所が被災したことにより戸籍データが消失した町村が出た。
コピーは、同じ地区の法務局にも定期的に送られているが、リアルタイムではないため一定期間内のデータの復元ができない事態が発生している。 
戸籍に限らず、重要なデータは、遠隔地のデータセンター等に預ける必要があると思われる。離れた他府県の役場同士でデータを持ち合うなどの工夫も考えられる。法務局も役場とほぼ同一地域にある例も多く、喫緊の課題である。 
データ パソコンで停電によりデータが消失  デスクトップパソコンでは、サーバーのように無停電電源装置(UPS)を利用していないケースが多いと思われる。そのため、停電と同時に作成中のデータが消失したり、ハードディスクが故障してデータが消えてしまったりした例もあると思われる。  UPSの必要性があらためて、浸透し、当分、UPSの品不足が続いている。
ノート型やバッテリー駆動が可能なパソコンなどの需要が高まった。 
電話 電話がつながらない時間が長く続いた 電話については、輻輳をさけるために電話会社が制御したため、何回かに1回程度しかつながらないこともあったようである。
携帯電話会社の基地局などが倒壊したり、停電時のUPSの電力が尽きたりして、基地局が機能しなくなった。 
電子メールやツイッターは、比較的、受信可能であった。
インターネットが複数の経路を持つためであると考えられる。 
なお、公衆電話は、つながりやすかったようである。これは、公衆電話からの電話を優先的に通すようになっているためであろう。
自動車 自動車及び関連工場が被災  東北地方の広い範囲で大きな震度の揺れが発生したことにより、生産拠点や部品工場の多くが被害に遭ったため、自動車の生産に大きな狂いが生じた。 部品不足がアメリカでの生産にも支障を来すなど、世界的影響を与えている。 
生活用品 多くの日常製品が一時的に商店から消えた  自動車と同様に東北地方を生産拠点とする電池、牛乳、ミネラルウォーター、ヨーグルト、パンなどの生産がストップしたことにより、東京などの主な都市の商店の在庫がなくなった。  東北、関東の石油精製工場が炎上や倒壊するなどの大きな被害が出た。このため、自動車用ガソリンや軽油が不足して、救援物資の輸送にも支障が出た。
災害用の備蓄は、あらかじめ、余裕がある時期に備えておく必要性が強く認識されたと思われる。 
救助 自衛隊が10万人体制  被災地の近隣市町村からの救援と平行して自衛隊が10万人体制で救助活動を行った。  運動能力、装備、規律において、大規模災害に際し、自衛隊が最も適した救援機能を持つことを内外に印象づけた。
援助 国際社会から多くの援助があった  特にアメリカ軍が「トモダチ作戦」と称して大規模な救援活動を行った。  アメリカ以外からも多くの救援活動が行われた。
日本がかつて援助活動を行った小さな国々も救援に駆けつけてくれたことは、海外諸国とのつきあい方について多くを学ばせてもらった。
県・市町村 被災範囲が広い  青森県、岩手県、宮城県、福島県、茨城県の県庁と沿岸市町村役場の多くが多かれ少なかれ被災した。  町長が津波で失われた例もあった。
被害地域が広域なので、近隣市町村からの援助が期待できず、困難な状況が続いた。
現在でも、一部は、他の市町村等に臨時に役場機能を移転してしのいでいる。
都市機能のバックアップをどう構築するかが問われている(注4)

注1 関東大震災
 1923年9月1日(大正12年)午前11時58分発生。神奈川県相模湾北西沖80km(北緯35.1度、東経139.5度)を震源とする「関東地震」による震災です。
 死者 10万余人(当時の東京都の人口は、約220万人。約5%の方が亡くなられた)という大惨事でした。
 死者は、東京の下町が中心で、火災や家屋の倒壊による圧死者が主だったとのことです。発生時刻が正午であり、昼食時間と重なる不運もありました。
 ただ、震源位置が、下図(by Google)の最も左側のマーカー位置だったため、津波は、三浦半島により、遮られ、東京湾での津波の高さが低かった一因だと考えられています。
 ですから、1923年の関東地震だけから、東京湾での津波の高さを低く想定するのは、大変、危険です。
 このあたりは、小松左京氏の「日本沈没」(昭和48年3月初版、昭和51年12月第408版:光文社カッパブックス)を読んでいる方は、納得されるでしょう。この上巻P240では、関東大震災の際に東京湾岸での津波の高さが低かった理由として、
 1.地震発生時刻の正午が「干潮」(干潮時刻:2時と14時の2回の14時)時刻に近かったこと
 2.三浦半島により津波が遮られたこと
 の2つを挙げています。
 このため、遮るものが無かった伊豆半島東側の「熱海」(左地図では伊東のやや北)で波高12m、同様に千葉県館山市相浜(左地図 房総半島の先端)でも、波高9.3mを記録しています。(理科年表2010年版による)
 同様のメカニズムで起きたと考えられている「元禄地震」(1703年12月31日)は、関東地震よりも規模が大きかったため、津波も犬吠埼から下田までを襲い、その被害も甚大だったようです。(理科年表2010年版による)
 従いまして、「日本沈没」で想定されているように、将来の関東地震の震源位置が仮に、元禄地震とほぼ同様に東京湾正面(三浦半島の東側)であるとするならば、波高10m以上の津波が東京湾岸に押し寄せる可能性は、十分にあると思われます。
 なお、安政年間の江戸地震は、内陸型の地震でそのメカニズムは異なると言われています。しかし、規模は、関東地震より小さいながら、江戸直下で起きたため地震そのものによる被害は大きかったのです。

注2 M9クラスの地震
 今回の地震は、1900年~2011年3月までの世界の地震の中で、その規模が4番目に大きい地震でした。
 前述の「日本沈没」の中で「田所博士」がM8.6以上の巨大地震の発生の可能性について、力説している個所があります。断層の破壊が複数個所で同時に起きるとすれば、あり得るという説明です。
 今回の東北地方太平洋沖地震では、ほぼ、同時に3個所の破壊が進行したと気象庁が分析しています。作者の小松左京氏の「想像力」には脱帽です。
 なお、あらためて、言うまでもありませんが、「日本沈没」は、SF小説です。SF(サイエンス・フィクション)というよりも、日本が沈没するという「想定」の上に立った「シミュレーション小説」であると考えた方が理解しやすいでしょう。小説にある「2年以内の沈没」という設定は、もちろん、虚構ですが、それを支える背景は、小松左京氏が当時の政財界の状況や最先端の学問をかなり正確にリサーチした上で書かれていると思われます。2011年時点では、政界は、与野党が逆転していますし、日本経済や産業界も日本のGDPが世界1、2位を争っていた時代とは大きく様変わりしてしまいました。
 一方、「自然」の構造は、ちっぽけな人間の様相の変化などには左右されません。そのため、その部分については、この小説が「シミュレーション」とはいえ、過去の地震の歴史や定説にあまりとらわれずにいることで、むしろ真に迫っているのではないかと思われる個所があります。今回の地震を機に読み返してみると、巨大地震や関東地震の津波の記述には、目を開かされました。
 また、富士山や浅間山の噴火の個所には、あって欲しくないとは思いながら、ある種の「予言」とも思えて、正直、不安を感じます。
 まさに、2008年5月の「シミュレーション力の不足を憂う」で書いた意味において、同氏は、近世に希に見る「シミュレーション力」を持った方です。

注3 宝栄地震
 1707年10月28日に起きたM8.6の巨大地震です。
 「宝栄地震」は、我が国で起きた地震の中では、「東北地方太平洋沖地震」(東日本大震災)が起きるまでは、最大規模の地震でした。東海地震、東南海地震、南海地震がほぼ連続して起きたのではないかと推定されています。死者2万人余、倒壊家屋6万戸、流失家屋 2万戸という大きな被害をもたらしました。(地震番号 134番:理科年表2010年版)
 地震そのものの被害は、東海道、伊勢湾、紀伊半島で甚大であり、また、津波は、紀伊半島から九州までの太平洋沿岸や瀬戸内海に襲来したとされています。
 そして、この49日後に、富士山が噴火しました。いわゆる「宝永大噴火」です。これを最後に2011年5月までの間、約300年以上にわたり、富士山は、噴火をしていません。
 ちなみに、記録が残る、富士山の大噴火は、遠く平安時代の「延暦の大噴火」(800年~802年)、「貞観大噴火」(864年~866年)とされています。このうち、「貞観大噴火」の3年後に「貞観地震」(869年7月13日:M8.3)が発生したことは、記録に残っています。
 このように、巨大地震の前後で火山が噴火するのは、それほど、珍しいことではないようです。

注4 都市機能のバックアップ
 前述のように、将来、規模の大きい「関東地震」が起きた場合、運が悪いと、東京都並びに近郊都市の人口の1%~10%(10万人から100万人)の死者とその10倍以上の家を失った人たちが出る可能性があるものと思われます。
 この際、東京都並びに神奈川県、千葉県等の特に沿岸地域の都市機能は、ほとんど、壊滅して、麻痺状態に陥ると考えられます。
 このようなとき、近隣の県、たとえば、埼玉県や茨城県などの都市に「救援本部」を設置することは、当然ですが、政府や中央官庁や国会などの人間や首都機能までも移転することは、収容する建物一つとっても難しいばかりか、かえって、当座の救援活動を妨げるように思います。このような非常時には、「大阪市」なり「札幌市」という遠隔地でも大規模な都市に、「首都機能」を臨時に移転して、対処するのが効率的であると考えられます。これは、いわゆる「首都移転」ではなくて、いわば、「都市機能のバックアップ体制」をどうするかという、より一般的、かつ、極めて困難な課題の典型であるととらえることがよいでしょう。そう考えれば、東京ではなく、大阪や名古屋などの大都市が被災した場合の対処方法への指針ともなりましょう。
 まずは、シミュレーションが必要です。シミュレーションのよい点は、机上訓練(実際は、コンピュータ上でしょうが)を行えばよいので、「想像力」の豊かな「カン」のよい人たちが数十人集まって作業をするだけで、人件費+αの費用をかけるだけで済むという点です。そして、シミュレーションを踏まえて、実地に「マニュアル化」しておくことが必要です。具体的には新規の法律なりが必要となるでしょう。その作業後または平行して、実地に訓練を行う必要があります。とりあえずは、移転先の都市と移転元の都市とを回戦で結んで、コンピュータ上での訓練でも間に合います。しかし、そのような訓練は、想定自体は、厳しい状態と「想定」しておく必要があります。でないと、「絵に描いた餅」になってしまい、実際に起きた場合にほとんど役に立ちません。
 先に挙げた「元禄地震」は、1703年12月31日のことですが、あまりに被害が大きかったため、「宝永」と改元されたそうです。ところが、上記のように「宝栄地震」が4年後の1707年10月28日に発生しているのです。日本の大都市における大地震は、必ず来ます。「必ず」というのは、このような歴史からも明らかです。 
 余談ですが、私たちは、美しい自然の姿を見て感動しますが、それは、自然が「無心」であり、何の虚飾やてらいも無く、ありのままの姿を見せるためです。古代において、このような美しい自然の姿を擬人化することで、私たちの祖先は、「神」の姿を思い描いたものと思われます。ところが、一転して、自然の脅威にさらさせると、そこから「鬼」や「悪魔」というイメージを感じたのでしょう。
 しかし、もとより、自然には、感情や意志がなく、その意味で「非情」であり、また、私たち人間界の原理が当てはまらないという意味で、はなはだ、「不条理」です。 

注5 自然を相手のゲーム
 やや、不謹慎のそしりを免れないかも知れませんが、地震の被害を最小化しようとすることは、地震を起こす「自然」と私たちがカードゲームを行うようなものです。
 自然は、まったく感情を持っておらず、その意味では、私たちを故意に欺いたりはしません。全くの無表情に近い(少なくとも表情をうかがい知ること=予知は難しい)です。
 自然の切るカードは、うんと単純化すれば、どの位置のどの程度の深さで、どの程度の規模の地震を起こすかというものです。
 対する私たちは、自然がここ、約100年程度、どのようなカードを切ったかの時系列的なデータは、持っています。それよりも前となると、どの位置(場所)で大きい地震があった程度しかわかりません。以前に述べたように、記録があるのは、高々、1000年程度です。これは自然にとっては、ごくわずかな期間です。それらの時系列データを元にして、予想しても、ほとんどあてることは難しく、あたっても被害がゼロになる訳ではありません。
 このゲームでは、自然は、時間につれて、さまざまなカードを切ってきます。微小な地震までを勘定すれば、分・秒単位でカードを切ってきます。一つ一つのカードによる被害は、起きる場所や日時、規模から、ある程度、判定できます。たいてい、私たちに与えるダメージはゼロです。しかし、希に大きな被害を与えます。
 一方、対する私たちは、たとえば、1日なり1月単位で、「政策」というカードを切ります。政策には、通常、大なりの小なり、費用が伴います。
 政策には、大きく4種類があるでしょう。
 1つ目は、予知研究です。
 2つ目は、地震による被害を防ぐため建物や道路、橋、鉄道などの設計、補強や構造規制です。住民に対する注意喚起などもここに入るでしょう。
 3つ目は、比較的新しいもので、大地震の発生をいち早く、人々に伝えて被害を最小限にとどめる方策です。
 4つ目は、被害に遭ったときの復興です。要する費用は、被害の大きさに比例して大きくなります。
 政策に係る費用総額は、国家予算により制約されます。使える国家予算は、地震の被害により減少します。難しいのは、政策の効果の評価です。
 特に1番目の「予知」については、気象予報という優れたお手本は、あるものの、目下のところ、ほとんどゼロです。その理由は、言うまでも無く、地下数十キロの地殻の状態を知る有効な手段が少ないということです。重力や標高の変化、潮位や海底の圧力の変化などのデータには、地震の前兆が含まれているとしても、それとは直接、関係のないノイズが多く含まれているでしょう。地殻の破壊が地震の本体であるとすれば、前駆破壊に伴って発生すると思われる電磁気の変位などにより地磁気や大気への影響もあってもおかしくはないのですが、「地震雲」は現在では、概ね否定されているようです。その他の現象らしきものの報告もあります。それらを含めて予知研究に対する政策は、あたる確率は小さいもののあたったときのリターンは大きいです。ただ、予知だけでは、被害をゼロにはできません。
 その意味で、2番目の政策は、もっとも、重要です。補強や建築だけでなく、たとえば、火災を防ぐためには、都市部の木造住宅を全面的に禁止するような思い切った規制策も考慮すべきです。燃えやすいという意味では、江戸時代とそれほど変わりません。むしろ、可燃物は、町中に増えてしまっています。現在、火災による被害が少ないと感じているのは、主として、通信(電話)、移動(車)、消火(消防車や消火栓)技術が発達してきたためです。電話や消防車が使えなければ、大火になってしまいます。阪神淡路大震災を思い出してください。
 3番目の政策は、遠い地震の場合は、鉄道や航空機などの被害を最小化できます。大きな地震のみに対応するだけでよいので効率的です。ただし、効果が限定的(数秒から長くても数十秒程度しか余裕がない)であること、自然の切るカードによっては、効果が無い(非常に陸地に近いか直下型)場合もあることです。
 4つ目は、自然の切ったカードの被害に比例した額となるので、受け身の性格です。被害がないときは、政策を実行できませんし、被害があっても、費用には、被害に応じた上限値があります。
 この4つの政策にどのような割合で投資すればよいかを競うゲームと言えましょう。ゲームの結果は、時々刻々、変動していきます。
 私たちとしては、徐々に費用の総額が減るようにしていきたいのですが、このゲームの非常に地味なところは、決して、ゲームに勝つ(被害をゼロにする)ことができない点です。
 このようなゲームをコンピュータ上で行うことは可能でしょうか?
 本当の意味では、自然がどのようにカードを切るかが判明していないと、すなわち、地震の原因や地下の構造、変化が把握できないと設計できません。地震の時系列がランダムであるとは、決めつけられないからです。機序が判明しないものをランダム現象として扱ってうまくいく場合も多いでしょうが、それは、決して自明なことではありませんし、適切でないこともあります。
 しかし、「ゲーム」であると割り切れば、擬似的に、過去の地震の時系列データを元にシミュレートすることはある程度可能でしょう。
 被害と4つの政策は、より具体的には、日本全体を細かく分割したブロックに対する被害や政策としてとらえることができます。被害や政策の効果はブロックの「状態」により異なります。また、政策が実体化するまでに時間がかかる点、すなわち、遅延を考慮する必要があります。4つの政策の評価は、現実的な数値としては、難しいので、パラメータとして与えるくらいでしょうか。詳細は、政策をもっと、細分化して精密にしないとこれ以上検討できませんが。
 このように書いてみると、昔やったことがある「信長の野望」というゲームを思い出します。地域をブロックに分けることや様々な政策をブロック単位で実施できる点、政策がブロックの状態によりその効果が異なる点など似ていることは、多々、あります。
 上述のブロック毎の人口や物資、地震に対する防御力や被害などを、もう一段、抽象化すれば、このような一般的なゲームに還元できるでしょう。
 ただ、このようにゲーム化したときに、注意すべき事は、ゲームの中の資源(人や物資など)は、抽象化されているため、個性がなくなっている点です。これは、数値化した段階で、個々の個性が失われるためですが、数値化しないと、シミュレーションは、ほとんど、不可能であるためです。この点だけをとらえて、このようなゲーム化に拒否感情を持つ方がいるかも知れません。しかし、元々、統計的に処理をすることで、個性が消えることは、ゲームに限ることではありませんし、数値化することで過去の歴史的事実と比較することが可能となるのですから、このような数値化や統計、ゲーム化に罪はありません。唯一、留意すべき事は、統計や数値化の際に失われてしまう、それぞれ人や「物」には「個性」があったことを忘れない事でしょう。
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