数式処理ソフト DERIVE(デライブ) de ドライブ

19.方程式と因果関係

方程式

「方程式というのは、何種類ぐらいあるのかしら?」

「方程式の定義かな。まあ、世の中には、○○方程式という名前は、山ほどあるからの。それは、「方程式」という用語の定義によるじゃろう」

「へー。そんなものなの。なんだか、あいまいじゃないの」

「方程式は、英語では、equation といって、文字通りでは、等式に近いのかな。何かと何かが等しい、と定式化したものは、皆、方程式といってもよいじゃろうな」

「じゃ、不等式は、方程式ではないの?」

「ま、狭い意味では、方程式ではないのかも知れんがの。実際は、同様の扱いをしているが。
不等式と等式では、だいぶん、その何というのかな、御利益が違うと思うのじゃよ」

「なーに。いきなり、ゴリヤクって?」

「つまりじゃ。方程式を立てる目的は、何なんじゃ?」

「そうね。何かの現象を解明したいためかしら」

「そうじゃろう。そのとき、不等式では、たとえば、y>x+10であると定式化してみても、x=2のとき、y>12じゃが、y=13でもよいし、y=100万でもよい。これでは、ともちゃんが言うところの「解明」とは、だいぶ、隔たりがあるじゃろう」

「ほんとに、そうね。じゃ、不等式って意味がないのかしら?」

「それは、また、行き過ぎじゃ。
数学上の問題に限っても、何らかの意味のある数値が不等式によって、上からか、もしくは、下からか、評価されているものは、多いのじゃし、熱力学のエントロピー増大の法則などは、不等式じゃからな。不等式も重要じゃの。
しかし、あえて言わせてもらえればじゃ、わしゃ、等式の方がずっと価値が高いと思うのじゃよ。それが世の中で方程式が大切な扱いを受けているゆえんじゃろう」

因果関係

「ともちゃん。インフルエンザだったんだって。もう、具合はよいのかの?」

「うん。お医者さんで薬をもらって、よくなったわ」

「ふ~ん。気をつけな、いかんな。今、副作用が問題になっているからの」

「本当のところ、転落死と薬の因果関係ってどうなのかしら」

「そりゃ。わしも分からんがな。ただ、因果関係という言葉は、学術的にも世の中の一般用語としても多用されているのじゃが、注意して使う必要があると思うのじゃよ」

「どんなふうに」

「たとえば、関数のところで陽関数というものが出てきたの。
y=f(x)じゃよ。ここで、xが原因で、yが結果と考えると、この方程式は、因果関係を表していると思ってよいじゃろう」

「原因が一つでないことも多いでしょうね」

「うん。それは、当然じゃ。
xは、一般に複数個じゃし、yもそれに応じて複数個のベクトルとして考えるのが一般的じゃろう。方程式も複数じゃな」

「それで、何が問題なの?」

「自然科学、特に、物理学では、xとyの区別が明確になっていることが多い。
たとえば、惑星の運動をとってみても、万有引力が原因で惑星の運動は、結果じゃ。その間をつなぐ方程式は、ニュートンの運動方程式だからの」

「明確でないものもあるのね?」

「うん。気象とか生体などの現象では、何が原因で何が結果なのかという肝心な点がまず不明確なことが多いのじゃな。
何らかの関係式f(x1,x2・・)=0としても、その中のx達とy達との区別ができるのか?、とか、x達も互いに本当に独立なのか?、といった点がな」

「地球温暖化の問題もそうね」

「お、鋭いの。炭酸ガス濃度の上昇と温暖化との因果関係を否定する学者もおるからの」

「ほんと?」

「こういった現象は、実験室で再現できん。そこで、地球シュミレータなどの計算機実験にたよるのじゃが、変数達の関係は、推測できても、一般に関係式に現われる係数(パラメータ)は、観測や実験によるしかないことが多い。しかし、地球規模の観測は、データの量や質で十分とは言えない。そこで、どうしても不明な部分が生ずる。だから、数学的に厳密な意味では、こういった関係を証明することは難しいのだろうて」

「じゃ、このままにしておくの?」

「いや、それはまずいのではないかな。因果関係は、証明できんでも相関関係は、あると思うのじゃ」

「相関関係?」

「そうじゃ。統計の方では、因果よりも相関関係を取り上げることが多いの。もっとも、相関係数を計算して、相関がありと推定できても、証明できたわけではない。ただ、重要なことは、それらの間に関係があるのではないか、という点を指摘することじゃと思うのじゃよ」

「方程式を考える動機になる、ってことね?」

「そう。現実世界では、方程式を立てて、それが正しいと証明できるまで何もしない、というわけには、いかないじゃろう。笑い話じゃが、将棋を知ってるかな?」

「うん。駒の動かし方ぐらいわ、知っているよ」

「ある人が将棋を指したところ、相手が、指す前に「参りました」という。びっくりして尋ねると、「あなたがこう指す、私がこう指す、・・、と考えると、いや、あなたの方がお強い、そこで、はじめから降参した」のだという。ま、これは、話じゃがの、やはり、行動しつつ、次の戦略を立てていくというのが、普通の考え方じゃろうて」

「そうね。人間だって、どうやって生命を維持しているか、それについて完全な方程式なんて、分かっていなくても毎日、暮らしているものね」