数式処理ソフト DERIVE(デライブ) de ドライブ

35.無次元化と次元解析

1.次元とは

「おじさん! ずいぶん、サボっていたわね」

「や。ともちゃんか。すまん。すまん。いろいろと忙しかったものでな」

「で、次元って、1次元とか3次元の「次元」なの?」

「いや。ここの次元は、そういう「次元」ではなくて、いわば、単位のことじゃな」

「単位って、メートルとかグラムとかのこと?「MKSA単位系」とかなの?」

「まあ、そうなんじゃが、そういう具体的な「単位」ではなくて、もっと、根源的な「長さ」とか「質量」といったものじゃな」

「ふ~ん。それを考えると、どんなご利益があるわけ?」

「ともちゃんも、「ご利益」がでるようになったの。
次元を考える理由は、いくつか、あるんじゃが、その前に言っておくと、これまでは、数式を解くときに、特に単位のことは考えてこなかったのじゃ。これは、暗黙の内に数式の中に現れる変数などは、「無次元量」と仮定してきたとも言える。数学では、普通、単位は、考えないからの。
 ところが、物理では、物理量というものを扱う上で「単位」を無視するわけにはいかないのじゃ。
これは、ある意味、当然のことで、物理量は、何らかの形で直接又は間接的に観測されるもので、その際、何らかの観測装置を使って、何らかの単位で計測し、それを数値化するからじゃ。
 大昔の数学では、変数に単位を考えていたので、2x-1=5などは、意味のある式じゃが、2x2-x=5などは、不自然ととしたようじゃ。確かにx2の単位とxの単位は、違うからの。
 しかし、これでは、あまりに不自由なので、その後、数式の中に現れる変数などは、次元のない量(無次元量)として考える習慣になったのじゃ」

「なるほど~。でも、物理の方程式では、単位を考えているよね?」

「そうじゃ。ところが、数式の中の変数などに単位を考えると、やっかいになることもある。異なった単位があるからの。長さをメートルで考えるか、センチメートルで考えるかでも、式が異なってしまうことがある。
 そこで、式を立てるときに、なるべく次元のない変数を使って式を立てると良いのじゃ」

「へえー。そんなことできるの?」

「たとえば、バネの単振動の方程式、md2x/dt2=-kx を考えてみよう。
ここで、mは、質量、xは、変位、kは、バネ定数じゃな。時間は、tで表している。
変形すると、おなじみの形、d2x/dt2=-ω2x を得る。ここで、ω=√(k/m)。
 無次元変数 XとTを、X=αx、T=βt で定義すると、与式を整理して、d2X/dT2=-β2ω2X を得る。
 ここで、β2ω2=任意の無次元定数(簡単のために=1)となるようにβ=1/ω=√(m/k)と選べば、d2X/dT2=-X と無次元量のみで式を表すことができる、とうことじゃ。
なお、αは、ゼロでない長さの逆元の次元を持つもので正値であれば、なんでもよいので、バネの自然長の逆数とすれば、よいじゃろうな」

2.次元解析

「次元が出てきたので、「次元解析」についても、ちょっと、触れておこうかの」

「うん。そういえば、おじさんのホームページ( https://www.tokyo-pax.com/200511.htm )の音速のところに出ているね」

「ほう、よう、気がついたの。こうじゃったな。
『・・音速V(=長さL/時間Tの次元を持つ)は、媒質の体積弾性率K(=質量M/(L×T2)の次元を持つ)と密度ρ(=M/L3の次元を持つ)の関数であると仮定すれば、次元解析より、Vは、(K/ρ)の平方根に比例することが分かります・・』
 そこでは、「次元解析」とは、何かということは、説明しておらんので、ここで簡単に紹介しておこうとゆうことじゃな」

「じゃ、お願いします!」

「おほん。さっき、ともちゃんが言うたように、物理量の間の関係式には、単位、すなわち、次元が含まれておる。
方程式を解くときには、それでは、不便な時があるので、無次元化するとよいというのが前節の主題だったのじゃ。
 しかし、そのことを逆手にとって、左辺に推定しようとする物理量を取り、右辺に関係すると思われる物理量をとったときに左右の次元が等しくならねばならないことから、その関係式を推定しようという方法が、次元解析なのじゃ」

「関係式がわからないと、何が変数として含まれているのか、わかんないんじゃない?」

「いや、それは、もっともな疑問なんじゃが、次元解析では、関係式を証明しようとしているのではなく、推定しようとしているのじゃな。
 音速以外の例を挙げてみよう。
 たとえば、簡単な例では、バネの単振動の周波数 f は、バネ定数 k とおもりの質量 m のみに関係すると仮定するとき、∝ で比例関係を表すと、
 f ∝kαmβ と書ける。ここで、α、βは、無次元定数じゃ。
 一方、[f]で周波数の次元を表すと、[f]=T-1、同様に[k]=MT-2、[m]=Mなので、T-1=(MT-2α(M)β となる。
 ここから、-1=-2α、0=α+βが得られ、α=1/2、β=-1/2 なので、f∝√(k/m)となるのじゃ。
 上でも使うたが、質量 M、長さをL、時間をTでそれぞれの次元を表すことにしておる」

「ふ~ん。でも、f ∝kαmβ と仮定するところが、なんだか怪しいわね」

「ともちゃん、今日は鋭いの。あたっているかどうかは、保証できんが、こんなふうに説明できるかの。
 推定したい物理量 U=F(τ1,τ2,・・)とおき、また、τ1などは、Uに関係すると仮定した物理量とする。
Uの次元、[U]=MαLβTγ、一方、τ1なども[τ1]=Mα1Lβ1Tγ1とする。αなどは、無次元定数じゃ。
 ここで、Fをτ1などでゼロの周りで、形式的にテイラー展開できると仮定すると、U=Σ係数×τ1l×τ2m×・・となる。(l、m・・は正の整数)。
 [τ1l]=[τ1]l なのじゃが、右辺のすべての項の次元が左辺のMαLβTγと等しくなるわけではないじゃろう。
3つの次元で考えたときに、τが3つ以下であれば、一意の解(l、m、n)は、一般には、1とおりしかない。
 τが4つの場合は、l、m、nに不定のパラメータpを含んだ項が残る。
具体的には、U=Σ係数×τ1l×τ2m×τ3n×τ4p、ここで、l、m、nは、不定のパラメータpを含んでおり、Σは、pについて行う。これを、τ4のpによる展開式と見れば、U=(τ4の関数)×τ1l×τ2m×τ3n とも考えられる。
 同様に(物理量の総数-次元の総数)個の変数を含む関数×τ1l×τ2m×τ3n ×・・と表現できるであろう。
 このことを「π定理」というそうな」

「なんとなく、ごまかされているようにも思うけど、とりあえず、よしとするわ」

「うん。確かに、少し、ごまかしがあるようにも思うのう。
Fの形として、数学的には、τ1τ2などのτ=0で展開できない関数形も無数にあり得るんじゃが。
 物理量の次元は、各物理量の次元の有理数のべき乗の項の積で表される、と決めつければ、簡単じゃが」

3.ロケットの到達高度

「実は、前回のロケットの到達高度の式は、複雑で見にくいのじゃな。そこで、上にならって、変数の置き換えを行って、もう少し、整理してみようと思うのじゃよ」

「たとえば、α=m0/(M+m0)のようにね」

「そうじゃ。以下、ku/(Mg) = β、gM^2/k^2 = γ。ただし、αは、無次元量じゃが、βとγは、長さの次元を持つことに注意して欲しい。
 これらの式を3元連立方程式として、m0、u、kについて解いて、前回の到達最高高度の式に代入すると、
 zmax=β^2γLN(1 - α)^2/2 + βγLN(1 - α)/(1 - α) + αβγ/(1 - α) のように整理できるのじゃな」

「この辺は、数式処理ソフト DERIVE(デライブ)の置換機能が活躍するわね」

4.ペットボトルのロケット

「ペットボトルのロケットというのは、知っておるかな?」

「ペットボトルに水と空気を入れて、内部の空気の圧力を上げて、水の噴射で飛ばすというやつね」

「そうじゃ。それについて、前節の式でだいたいの最高高度をあたってみたいのじゃ」

「えーと。ペットボトルの空の質量をMとすると、安定のためのおもりを入れて、M≒0.2kgぐらいかしら。
 次にと、燃料となる水ね。ボトルの容積が2リットル程度として、m0≒1.5kg、残りの容積に空気を満たすとする、ただし、空気の質量は、無視する。空気の圧力は、どのくらいかしら」

「自転車用空気ポンプで圧力をかけるとすると、高くても、P=15kgw/cm2≒150N/cm2=1.5×106N/m2=1.5×106 Pa(パスカル)程度じゃろう。問題は、u(噴出速度)とk(1秒間に吹き出す水の質量)じゃな」

「1気圧って、どのくらいかしら」

「1気圧は、約10万パスカルじゃな」

「とするっと、ボトルの穴の直径を8cmとして、噴出穴の面積をSとおく。ボトル内の空気圧がかなり大きいので、大気圧を無視して、また、最初の圧力が続くと見なす。さらに、ベルヌーイの定理を適用できると仮定すると、ρu2/2≒P 、ここで、ρは、水の密度≒103kg/m3 を基に計算すると、u≒55m/s。
 一方、k=u×1sec×S≒0.28 kg/s」

「すると、「燃焼時間」=m0/k≒3.6sec、となって、まあ、そんなものかと思えるの」

「前節のパラメータを計算してみるよ。
α=m0/(M+m0)≒0.88、β=ku/(Mg)≒7.88、γ=gM^2/k^2≒5、これから、zmax≒280 m 、すごい!」

「喜ぶのは早いぞ。uk>=(M+m0)gは、満たされているかの?」

「えーと、この場合は、左辺≒15.4、右辺≒16.7、あー。惜しい。最初の条件を満たしていないよ。これでは、地面から上がらないよ」

「水が多すぎたということかの。条件から、m0<=uk/g-Mとして計算すると、m0<=1.37となる。水の量をこれより減らさないといけない」

「ということは、m0=1kgとして再計算するよ。
 α=m0/(M+m0)≒0.83、β=ku/(Mg)≒7.88、γ=gM^2/k^2≒5、これから、zmax≒270 m 、すごい!
 それに、この場合、uk≒15.4、(M+m0)g≒11.8、となって、初期条件をクリアしている!」

「まあ、実際は、ボトル内の空気の圧力は、膨張するに従い最初のPを維持するわけではないので、uも時間とともに減少するから、そこまでは、飛ばないと思うがの。ただ、WEBで見ると、100m以上飛ぶものもあるらしい。当たらずといえども遠からず、といったところかな」

最終更新日 2008/3/22,2016/9/21