数式処理ソフト DERIVE(デライブ) de ドライブ

36.次元解析(再)

1.有理数のべき乗なの?

「おじさん。
数式処理ソフト DERIVE(デライブ)の前回の記事で「物理量の次元は、それを構成する物理量の次元の有理数のべき乗の積で表される、と仮定すると簡単なんだが」と書いているわね」

「そうじゃったな」

「でも、なんで、実数ではいけないのかしら? 特に有理数と言わなくてもいいのじゃない」

「数学的には、次元、たとえば、長さの次元をLで表すとき、物理量 Uの次元[U]のうち、長さの次元 Lの部分にL√2 なども許されるじゃろう。
それを[U]=Lm/n の形に限る、といっているわけじゃからな。ここで、m,nは、整数(nはゼロでない)じゃ」

「そうよ。どうしてかしら?」

「一応、こういう事は言えると思うがの。
Uを構成する物理量をτ1などと書くときに、[τ1]などのLの部分がLの有理数べきならば、無理数は有理数の積の有限桁の和では得られないことから、[U]に次元Lの無理数乗が現れることはない」

「なるほど。一応はもっともだけど、そもそも、Uを構成している物理量τ1達の次元[τ1]のLの部分に無理数乗が現れていないことをあらかじめ仮定しているわけね」

「うん。そういうことじゃ。
その理由じゃが、Uを構成している物理量τ1達は、直接に観測される量であるか、または、間接的に観測される測定量から計算されるものではあることは確かじゃろう。
 そして、直接、観測される場合は、それらの次元が簡単な次元を持つものであるとことはほとんど、明らかじゃな。
 また、間接的に計算される場合も、直接、観測される量達が簡単な次元を持つものであることを認めれば、同様の議論により、それらも無理数乗の次元を持つことはないと言えるのじゃなかろうか。ま、もっとも、これは、説明であって、数学的な証明にはなっておらんがの」

「なるほどね。じゃ、どういう場合でも無理数が現れる可能性はないのかしら」

「断定的には言えんかもしれんがの、たとえ、フラクタル的な空間でもじゃ」

2.コッホ曲線

「なーに。そのフラクタルって」

「そうじゃな。たとえば、「コッホ曲線」が有名じゃな。
長さ1の線分(この状態をn=0)を3つに分割して中央に長さ1/3の正三角形を作る。
これをn=1とする。n=2では、長さ1/3の4つの線分を更に1/3に分割する。
このように順々に分割を繰り返す。このときの長さの推移はどうなるかの?」

「えーと。長さをSで表すと、S(0)=1、S(1)=1/3×4、S(2)=1/32×42、・・かしら。n=∞では、S(∞)=∞だ!」

「そのとおり。長さが無限に長くなるのじゃな。
ま、もっとも、数学的には、線分をいくらでも短く分割できるが、物理的には、原子の大きさより短く分割はできんがな。
 この曲線上での物体の運動(曲線に沿った運動)を考えてみよう。このとき、基準となる最初の線分の長さをl(エル)としたとき、始点から終点までの到達時間は、どのようになるかな」

「そうね。まず、曲線の長さだけど、全長は、l/3n×4nとなるのだけど、速度の大きさをv(一定)とすれば、到達時間 t(n)=l/3n×4n /v 。
 一方、基準長lがk倍になった場合をt(k,n)と書けば、t(k,n)=k×t(1,n) となるわね」

「そうじゃな。基準長がk倍になった場合、到達時間もk倍になるのは、普通の直線と同様じゃな。
しかし、物体の長さが有限であると考えると、少し、異なってくるぞ」

「長さ?」

「そうじゃ。物体の長さをx(<<l)としたとき、xが(l/3n)以下の凹凸は、物体にとって、無いのと同様じゃ。
我々が、物差しで机の長さを測るときに表面の凹凸は、無視するようにな。
そこで、x=(l/3n)までのnで固定して考えてみよう」

「えーと。そうすると、nの上限は、nmax≒ LN(l/x)/LN(3) となるので、全長は、x(l/x)(2LN(2)/LN(3)) となる。このときの到達時間は、t=x(l/x)(2LN(2)/LN(3))/v 。
 一方、lがk倍された場合は、t(k)=t×k(LN(4)/LN(3)) ≒k1.261859507×t 、となるのね」

「この式には、xが現れてこない。
このLN(4)/LN(3)≒1.26・・(無理数)をコッホ曲線のフラクタル次元と呼んでいるそうじゃ。
すなわち、到達時間は、基準の長さlに正比例するのではなく、lの無理数乗に比例することがわかる。
ここでは比較の対象を直線にとったが、円や楕円など一般にありふれた曲線は、常に1に比例するので、コッホ曲線は、特殊なケースであることがわかるじゃろう」

「なーるほど。こんな場合でも、到達時間の次元は、t=x(l/x)(2LN(2)/LN(3))/v から、(l/x)は、無次元となるので、[t]=[x]/[v]=T となって、次元の関係式には、無理数乗は、現れないわね」

「一言、注意しておくとじゃ、無次元パラメータ、ここでは、(l/x)の関数形は、無理数乗になろうが、どんな複雑の形でもええんじゃな。
その関数形が有理数のべき乗になると言っているわけではないので、気をつけて欲しいの」

3.ディラックの大数仮説

「次元解析に関係することなのじゃが、イギリスの物理学者 ディラック(P.A.M.Dirac 1902~1984年)の提唱した「大数仮説」のことじゃな」

「なに、それ」

「先ほどの物理量の大元の物理量となると、何があるかな?」

「そーね。光の速度とか電子の質量とか、かしら」

「ディラックは、それらの物理量から無次元量を構成すると、非常に大きい数字がいくつか現れ、それらが同じ程度の大きい数字であることに注目したのじゃ。
 具体的な内容は、「ディラック 現代物理学講義」(培風館:1985年)に詳しいが、これは、1975年にオーストラリアで行われた講演「宇宙論と重力定数」という標題で公にされたものだ。その骨子は、重力定数が真の「定数」ではなく、宇宙誕生からの時間に逆比例して減少している、というものじゃ」

「でも、偶然かもしれないじゃない?」

「うん。現在のところ、重力定数は、定数と信じられていて、ディラックの大数仮説を信じている者は、少ないようじゃな。
 ただ、物理学上の真理というものは、数学とは異なり、ある種の「仮説」の面があることは、否定できない。いずれにせよ、この「大数仮説」の真偽も明らかになる日がくるじゃろうて」 

最終更新日 2008/3/22