数式処理ソフト DERIVE(デライブ) de ドライブ

51.複素関数(6)(留数定理の応用)

1.実軸上に極を持つ実関数の定積分

「数式処理ソフト DERIVE(デライブ)の第50回では、留数、留数定理、そして、その応用として、実関数の定積分を勉強したんじゃが、∫(0~∞)(sin(x)/x) dx のように、実軸上に極を持つ定積分については、時間がのうなってしもうたな」

「そうね。そもそも、第41回の「積分(1)」で扱った、余弦積分などが、そういう、定積分だったものね」

「で、まず、最初は、∫(0~∞)(sin(x)/x) dx=π/2 じゃ。これは、ハンドブックにも登場しているので、わかりやすいじゃろう。
被積分関数は、偶関数なので、積分範囲を-∞~+無限大に拡大して考える。
そして、やや、天下り式じゃが、複素関数、ω=exp(#i z)/z の定積分、∫ωdzを計算する。
積分路は、左図のようじゃな。
大きな半円 C1に沿った部分は、∫赤、実軸上の緑部分を∫緑、そして、小さな半円 C2に沿った部分は、∫青じゃ。この領域内では、ω(z)は、正則なので、∫ωdz=0となる。
具体的に、∫赤と∫青を計算してご覧」

「う~ん。じゃ、まず、∫赤ね。半径をr、sは、角度として、z=r exp(#i s)と書くと、
∫赤=#i∫(0~π)(exp(- r SIN(s))COS(rCOS(s)) ds、となる。
r=10k と置換して、数値計算してみると、k=1~10(r=10~1010)で、この積分値は、次のようになる。

([- 0.1751025348#i, 0.01714172058#i, 0.001126400842#i, - 0.0001904330853#i, - 1.998722000×10^(-5)#i, 1.873509658×10^(-6)#i, - 1.821878076×10^(-7)#i, - 2.269182229×10^(-8)#i, 5.229910638×10^(-8)#i, 5.449823920×10^(-8)#i])
これから、r → ∞で、ゼロになるのではないかと予想できる。事実、ハンドブックにならうと
|∫(0~π)(exp(- r SIN(s))COS(rCOS(s)) ds|≦|∫(0~π)exp(- r SIN(s)) ds|=2|∫(0~π/2)exp(- r SIN(s)) ds|
=2|(∫(0~δ)exp(- r SIN(s)) ds+(∫(δ~π/2)exp(- r SIN(s)) ds|、δ>0のπ/2より小さな実数。
ここで、第1項は、被積分関数 exp(- r SIN(s))がこの区間で、単調減少なので、最大でも、1であり、積分値は、δより小さい。
第2項は、被積分関数の最大値 exp(-r sin(δ))なので、積分値は、exp(-r sin(δ))×(π/2-δ)より小さい。
従って、|∫赤|<2δ+exp(-r sin(δ))×(π-2δ)、ここで、δを固定した上で、r→∞にすると、第2項→0、そして、δを0に近づければ、右辺は、いくらでも小さくできるので、|∫赤|→0 となる。
次に、∫青=-#i∫(0~π)(exp(- εSIN(s))COS(εCOS(s)) ds、となる。ここで、ε=10-k として、k=1~10(ε=0.1~10-10)で、計算してみると、
([- 2.941703731#i, - 3.121592765#i, - 3.139592666#i, - 3.141392661#i, - 3.141572653#i, - 3.141590653#i, - 3.141592512#i, - 3.141592653#i, - 3.141592653#i, - 3.141592653#i])
となるので、∫青→(-π #i) と予想できる。事実、被積分関数は、ε→0で、1にいくらでも近づくので、積分値は、-π#i 。
最後に、∫緑=∫(-r ~-ε)exp(#i x)/x dx+∫(ε~r)exp(#i x)/x dx、ここで、第1項の変数を、u=-xと変換すると、
∫緑=-∫(ε~r)exp(-#i u)du +∫(ε~r)exp(#i x)dx となるので、被積分関数をまとめると、
∫緑=∫(ε~r)(-exp(-#i x)+exp(#i x))dx=2#i∫(ε~r)sin(x)/x dx 。
そして、結局、∫ωdz=0=∫赤+∫青+∫緑なので、-π#i+2#i∫(ε~r)sin(x)/x dx=0、この第2項で、εをゼロに近づけると、
∫(0~∞)sin(x)/x=π#i/(2#i)=π/2 となる」

「そうじゃな。∫赤、∫青での極限の考え方など、必ずしも、厳密じゃないかもしれんが、ま、よしとしよう。
ところで、∫青=-π#i じゃったが、これは、ω=exp(#i z)/z のz=0における留数=1から、1×2π#i×(-1)×(1/2)=-π#i とも計算できる。
ここで、負号を付けているのは、時計回りに回るため、また、2で割っているのは、半周だけするためじゃな」

2.休載のお知らせ

いつも、「DERIVE de ドライブ」をご覧いただき、ありがとうございます。
 今年は、少し、忙しくなってきましたので、「DERIVE de ドライブ」は、6月ぐらいまで、お休みさせていただきます。
 時間ができましたらば、この続きを書いていきたいと思いますので、ご愛読者の方には、誠に申し訳ございません。
 なお、本稿以外の内容につきましても、掲載が滞るかも知れませんので、お含みおきください。

最終更新日 2009/1/12